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「…ふぅん。それで遅刻、ね」
週初めの早朝。とあるクラスで、担任の低い声音が響く。一人の男子生徒が遅刻をしたのだ。
「いや、あの…ホントすいませんでした」
「ま、いーや。朝っぱらから説教するのもたりぃしな。気をつけろよ」
「…はい…」
やっと自分の席に着き、ふぅ、と溜息を付く。
一見、どこにでも居るような男子高校生…織田敦は、今朝の事を思い出していた。
…何故、あんな事になってしまったんだろう。

偏差値は、正直そこそこ。自宅からの距離は電車で二駅ほど。
まあ自分の学力で入れる無難なところが良いかなぁと、軽い気持ちで受験した天能寺高校に入学して早二ヶ月。
だいぶ学校生活にも慣れた、という感じだろうか。今日もいつも通りに家を出て、電車に乗る。そこまでは良かった。
週初めの早朝ときたら、当然、通勤や通学のラッシュアワーが激しくて。
そんな事は十分すぎるほど知っていたが、今朝は週末の疲れも取れないままだった。
(しんどい…)
吊り革に捕まりながらふと考えてしまうのは、マイナス思考な事ばかり。
それに気を取られて、俺は押し寄せる大群に気付かなかった。
寸前の所で踏み止まったが、体勢を立て直そうとして、異変に気付く。
(か、鞄がっ…!?)
最初は恐る恐る、だんだん強めに引っ張っていっても挟まれた鞄は一向に抜けず、冷や汗が滲んでくる。
例えばこのまま、力のままに引っ張ってみる自分を想像しよう。天能寺高校指定の学生鞄は一般的に見られるボストンバッグ型で、普段は肩に下げている。持ち手をしっかりと握り、少々お行儀は悪いだろうがドアに足をつけて、体重をかけて思い切り…いや、それは怖い。怖いよ。
何せ鞄が挟まっているせいでドアには隙間ができ、風と騒音が電車のスピードをリアルに感じさせてくれる。
もしも走行中にドアが開いてしまったら?鞄が外に落ちてしまったら?そんな最悪のパターンも頭に過ぎりさえする。
焦れば焦るほど上手くはいかないもので、ドアと格闘している内に降車駅に着いてしまった。
見事に俺とは反対側のドアが開き、また大勢の人が出入りする。
周りから聞こえた、哀れんでいるのかうけているのか、両方っぽい笑い声。
再びゆっくりと動き出した景色を眺め、無様に挟まれながら思った。
…何ともまあ適当に入学してしまったけど、俺、本当にこのままで良いんだろうか…?

「ホントしんどい…」
今朝のハプニングを一通り思い出すと、俺は自分の机にへばり付くようにして、何度も呟いた。
あの後はドアが開いた駅で降り、そこから戻って学校に向かった。結局一限目には間に合わず、担任から少しばかりの注意を受けたのが今。
今日はこの後の授業も投げ出して寝てしまおうか。そう考えただけであくびが出る。
「あっちゃん、おはよう」
ふいに聞き慣れた声がして、薄目を開ける。
「あー…千裕か。おはよ…」
そこには、同じクラスの徳峰千裕がいた。
敦だから、彼にはあっちゃんなんて呼ばれている。男なのにちゃん付けは少し照れ臭かったりもするが、昔からのあだ名だからあまり気にしてはいない。
というか、正直に言えば千裕の方が小柄だし、顔も声も振る舞いも、男には見えない。実際、よく女に間違われている。
本人はかなり気にしているようだから、俺は言わないけれど。
彼なら今朝のことを愚痴っても同情してくれると思い、嬉々として顔を上げる。
だが次の瞬間、俺の表情は曇った。
「今朝は散々だったな。そんなバカみたいな出来事に遭遇するのは漫画だけかと思っていたぞ」
眼鏡で鉢巻きをした、同い年にしては大柄の男子生徒、貴臣秀吉が俺と千裕の前に仁王立ちしていた。
「ば、バカ言うな。ほんとどうなることかと思って焦ったんだからな!」
ムッとして言い返しても秀吉は無表情のままだ。
言動に遠慮がない秀吉は、周りには空気が読めない奴だと思われているだろう。
思考は電波気味ではあるけど、決して悪い奴ではないとだけ言っておこう。彼の名誉のために。
まあなんだかんだ言っても、秀吉と千裕の二人は今のところここ天能寺高校で唯一、俺の友達って呼べる人物である。
……とはわかっているものの。
「やっぱ秀吉の態度は凹むってもう!優しい言葉の一つや二つ掛けてくれたって良いだろぉ!?」
「うむ、本当に大変だったな。電車のドアに鞄を挟んでしまって…フッ…大変……ブフフッ」
「わーらーうーなー!」
人の赤っ恥体験に吹き出しまくる秀吉はやっぱり意地が悪いと思うんだよな、うん。
やり場もなく震える俺を、千裕が苦笑しながら宥める。
「ま、まあまあ、元気出してよ。今日はあっちゃんの為に、良いお仕事を持って来たんだよ?」
お仕事…?俺と、秀吉も内容が気になるのか、二人して首を傾げる。
「うん。僕の知り合いに明王院さんって人がいるって話はしたよね?」
「あー、あの凄い金持ちのだっけ…」
「実は、その人がさ…」
千裕の話をまとめるとこうだ。
明王院さん、ってのは最近海外進出も果たしたっていう有名なIT会社の美人女社長なんだけど、その一人息子が中学三年生にして不登校らしい。
で、その息子さんを更正させて欲しいってのが社長の願いな訳で…。
「ち、ちょっと待てよ。そんな大役…俺で良いの?普通はほら…カウンセラーっつーの?あーいう人に任せた方が…」
「まぁ、そうなんだけどさ。人見知りが激しい子だし…気軽に話せるような、年が近い人が良いだろうって」
確かに社長の一人息子がそんな状態なんて、あまり表沙汰に出来たものではないだろう。
訳あり、という奴か…。千裕の話を聞きながら、なんとなくどんな子なのか気になって来る。
「あ、ちゃんと面倒を見てくれた時間の報酬は出すそうだから。バイトみたいな気分で…」
「やらせて頂きます!!」
千裕の話を最後まで聞かないまま、口が勝手に動いていた。
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