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一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
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それはまだ俺がクラブでバーテンをやっていた頃の話。
「なんだか騒がしいな…」
「あの酔っ払い、最近よく来ますね…ったく迷惑な奴らめ」
蓮見が呆れながら顎で示す先には、数人の舎弟を引き連れて他の客に難癖をつけるヤクザ風の男の姿があった。
今までにもそういう輩の姿を見たことはあるが、まずこの店自体が違法なことから、表沙汰になって困るのはこちらだ。
それを知ってわざと暴れる客もいる。だが、未だ摘発されていないのが現状だ。
龍真組の息がかかっていることを除くと、騒ぎにならない決定的な理由がそこにはある。
「…クズだな」
「柳に始末させましょうか」
「いや、俺が出る。店長も飽き飽きしててさ。今度あいつらが来たら俺の好きにしていいって言われてるんだ」
蓮見は俺の返事を聞くと、店の外で見張り役をする柳に連絡をとった。
すぐさま相手を視界に捉え、背後に回った柳と目で合図を送り、二人掛かりで酔っ払い達を静かな個室へ連れ出す。
俺はそれを見届けると、店長に許可をとってカウンターを後にした。

一足遅れて部屋に入ると、呆気なく床に伏した舎弟達を、柳が不機嫌そうな目で睨んでいた。
「お、お前らこんな真似してただで済むと思うなよ…あの龍真組直系、長澤組に喧嘩売ってんだぞ!」
男は言いながら、震える手で胸のバッチを突き出した。
一瞬目を見開いた柳だったが、どうやら怒りを通り越して呆れ果ててしまったようだ。
力が抜けたように首を振ると、口角をつり上げる。
「一見それっぽいけど全然違ぇよ」
「……へっ?」
「長澤組は直参の中でも穏健派だ。俺も随分と世話になっているが…お前らのような馬鹿は見たことも聞いたこともない」
何とも間抜けな顔になった男に、蓮見が冷静に言う。
こうなっては、さすがに男の酒気は抜けているだろう。
だが、長澤組に属しているらしいにも関わらず蓮見らのことを知らないというのはあまりにも不自然に思えた。
長澤組長は龍真組内でも若頭を務めるNo.2の大幹部で、蓮見の祖父とは兄弟分、親戚団体なのだ。
それの構成員ともあろう者が、いくら酒の勢いとは言えこのような裏切り行為を働くことなどありえない話だ。
あわあわと口を開閉する男の側ににじり寄っていく。
すると、男は情けなく俺達を見上げて叫んだ。
「ち、違うっ。俺らは堅気だっ!これ…試しに造ってみたのを見せたらどいつもこいつも震え上がるもんだから…ほ、ほんの出来心だったんです!」
やはり偽造か。そんなものを使って今まで調子に乗ってきたのだと思うと、頭の中がどす黒い感情に支配されていく。
「ハッ、堅気だって?マジありえねーわ。オレらも舐められたモンだな」
柳が足元の舎弟の手を踏みにじりながら肩を竦める。
「…俺は今、虫の居所が悪いんだ。もう店に来ないって約束するなら、これくらいで許してやる。だが…暴れるようなら」
「う、うるせぇっ!そ、そうだ…こんな真似してただじゃ済まねえのはお前らの方だ!今すぐ警察に…!」
恐怖が勝ったか、男は負けじと上擦った声で吐き捨てる。
俺は宙を眺めると、深いため息を吐いた。
「人の話は最後まで聞けって習わなかったか?…暴れるようなら…死ぬ覚悟をしておけ、って言いたかったんだよ」
普段より低い凄みのある声で言いながら、男の胸倉を引き寄せ、渾身の力で膝蹴りをくらわせる。
倒れ込んだ男を見下ろし、試しに脇腹を踏み付けてみた。
弱々しく、されどまだ抵抗する元気はあるようで、男は俺を押し戻そうと両手で靴を掴む。
その仕草がムカついて、男に馬乗りになる。男の片腕を捩り上げ、そして…硬いものが折れ曲がる不気味な音が響いた。
「あーあ。骨逝ったな。可哀相に」
「鷲尾さんを怒らせるから悪いんだろうが。ギャハハッ」
全く同情していない風な蓮見の横で、柳は腹を抱えて笑う。
男の絶叫がなければ、まるでバラエティー番組でも見ているかのような反応だ。
男の片腕はありえない方向に曲がり、一般人に比べれば多少は厳つく見える顔も、俺への恐怖に染まっていた。
本当はこんなにも弱い癖に、連日の強気な態度はなんだったんだ?集団行動でしか自らを主張できず、強い者の蜜を啜り、立場の弱い者を嬲る。まるで子供のすることじゃないか。
顔をめがけて拳を振り下ろすとガツッと鈍い音がして、男の鼻から赤い粘液が零れる。それは、俺の手にも付いていた。
…血だ。気付いた途端、脳裏に蘇る。
大量の血液に塗れ、肉塊と化した両親の遺体――あの日、あの時、それを目にした瞬間から、俺の何か大切なものが壊れてしまった。
頭から追い出すように更に一発、二発、三発…立て続けに男を殴った。
殴り続ける内に、もうこれが一体何発目なのかも曖昧になってきた。
無心で腕だけを動かす俺の肩を、不意に二人が抑え付ける。
「邪魔するなっ!!」
「ちょっ…どうしちまったんだよ鷲尾さん!今日やり過ぎじゃないっすか!もう放っておいたって死ぬって!!」
「柳の言う通りです。こんな雑魚に、貴方が手を汚す必要はない…!」
大の男二人掛かりで羽交い締めにされ、無理矢理引き剥がされる。
既に虫の息である血まみれの男を目にして、尚も俺は叫ぶ。
「離せ!!こういう奴はっ、野放しにしちゃいけないんだ!クズが…!クズがいるから世の中が悪くなるっ!!だから、父さんと母さんも…」
「鷲尾!!」
蓮見の怒声と共に、腹に鉄拳が飛んできた。
身体を抑え付けられた状態では避けられるはずもなく、その拳をモロにくらってしまう。
俺は咳込みながら反射的に蓮見を睨んだが、物怖じしない蓮見の態度に、それから殴られた痛みも相俟って、興奮が冷めてきた。
そうして、自分がいつの間にか我を忘れていたことに気付いた。
二人は何も答えない。それでも、やるせない感情を胸に抱いていることはわかった。
俺は焦れている。
両親の事件の時効が近いにも関わらず、未だ決定的な情報はなく、犯人像すら掴めていない。
そんな中で、唯一渇きを満たせる時間。「制裁」という名の暴力行為に及ぶことが趣味と化していた。
「…そいつ…どうするんだ」
静かに二人に見やると、俺と目が合った柳が身体を緊張させた。
「あ…はい、こっちで処理しておきますよ。安心して下さい、鷲尾さんに迷惑はかけないようにしますから」
「そう」
俺の素っ気ない返事にもう暴れる気がないと悟るや否や、柳は普段の砕けた笑い方をするが、声は上擦っていた。
蓮見も、申し訳なさそうに俺の顔色を伺ってくる。
「あの…すみませんでした。咄嗟のこととはいえ…鷲尾さん、大丈夫ですか」
「ああ……」
「…荒っぽい真似しか出来なくて申し訳ないです」
ため息まじりに笑いながら、蓮見は頭を掻く。
ただ一言、ごめんと。こんな俺を見捨てないでくれてありがとうと、言えない自分に無性に腹が立つ。
(…本当のクズは俺の方だ…)
そんな本音は、声に出すことなく消えた。
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