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実は本格的に創作し始めてから一番思い入れのある作品なんですが、創作追加しました~。
パロディというか、あくまでもなんちゃってです。もれなく語尾にてへぺろ☆が付いてきます。
ただタイトルはずーっと決まってなくて現在も募集中です…(´・ω・`)切実に
贄の方は(真面目な話は)ただひたすらにシリアスなので…
贄でしか書けないものもありますが、やっぱり擦れた大人や擦れた学生(笑)では書けない話もあるなーと思うところも多々。
高校生の日常とか楽しい!学園もの大好きです!(*´∀`)
そういう訳で、こっちは正反対の平和でおバカな部分を担当していってもらいたいと思いますw
ではでは、新しい子たちもどうぞよろしくお願いします。
パロディというか、あくまでもなんちゃってです。もれなく語尾にてへぺろ☆が付いてきます。
ただタイトルはずーっと決まってなくて現在も募集中です…(´・ω・`)切実に
贄の方は(真面目な話は)ただひたすらにシリアスなので…
贄でしか書けないものもありますが、やっぱり擦れた大人や擦れた学生(笑)では書けない話もあるなーと思うところも多々。
高校生の日常とか楽しい!学園もの大好きです!(*´∀`)
そういう訳で、こっちは正反対の平和でおバカな部分を担当していってもらいたいと思いますw
ではでは、新しい子たちもどうぞよろしくお願いします。
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ナントカだから。
って、よく使うんだよな、俺。
雨だから落ち込むとか。智光じゃないけど、冬だから外に出たくないとか。
で、今は春だからってのを多用してる。
朝も少し肌寒くはあるが、心地いい風はとても過ごしやすくて。
洗濯物はよく乾くし、特に用もないのになんだか外に出たくなる陽気で。
だからなのか、いつもは石のように家に閉じこもって動かない智光も、どこか落ち着かない様子だった。
「えっ、お前、どこか行くのか?」
「……悪いかよ」
「い、いや!悪くない!ただ、珍しいなと思っただけ」
眉に皺を寄せられて、咄嗟に弁解した。
これが春以外の季節だったなら、そのまま不機嫌になって、その日は口も利いてもらえないってことになってただろう。
でも春だから、智光はクスッと笑って、自分の外出先を教えてくれる。
「花見?言ってくれれば、準備もあっただろうに……」
「…すっかり忘れてたんだよ…。こんなことなら、徹夜でゲームやらなきゃ良かったぜ」
「いや、花見が無くてもやらない方がいいって。身体に悪いだろ」
「折角の花見なんだ。説教は後にしてくれよ」
今日こそは注意してやろうと思ったのに何故だか納得させられてしまって…結局俺たちは今、花見会場に来ている。
「よー」
「遅いぞ。これ以上待っても来ないなら、俺たちだけで先に始めようかと思ったほどだ」
「悪い悪い。でも来たから良いじゃねぇか」
いつもの調子で軽く言った智光は、今にもキレそうな秀吉に胸倉を掴まれていた。
「うわぁー…ここ、すごくいい場所だな」
すると、千裕が「秀吉が早朝から睨み効かせて陣取ってた……」って耳打ちしてくれた。
確かに秀吉ならやりそう…というか、正にその光景が目に浮かんで、思わず笑う。
でもその直後、「特等席を取ってやった俺に感謝しろ」と何故か叩かれた。
……こういうの、八つ当たりって言うんじゃないか?
そして、全員がシートに腰を下ろしたら、早速乾杯タイムだ。
と言っても、秀吉が持って来てくれた水筒の桜茶を紙コップに注いだだけなんだけど。
でもなんか、こういうのって良いよな。気分はまるで小学生の遠足だ。
「じゃ、乾杯」
「かんぱーーーい」
智光の合図で、桜茶を啜る。
そして、千裕が持って来た人数分(俺は自分の買って来たけど…)の重箱を開ける。
おにぎりだの、出し巻き卵だの、個々に好きなものを頬張った。
「それにしても、綺麗だなぁ……」
桜の雨って、このことかな。風が吹く度、ほのかな甘い香りが漂ってくる。
そんな中で、俺は友人たちと共に花見をしている。
実に平和だ。平和すぎて、拍子抜けしてしまうくらい。
「……ちょっと、膝貸して」
「え?うん、良いけど」
智光が頭を乗せてきた。
盛大な欠伸をして、ゆっくり目を閉じる。
「こいつ……寝たな……」
「ホントだ。寝ちゃったね」
「そういえば、今日はまた徹夜したって言ってたからさ……仕方ないか」
ん?
当たり前のように会話をしているが、何か、おかしい。
膝の上で規則正しい呼吸をする智光の顔をまじまじと見下ろした。
みるみるうちに、顔が真っ赤になる。
「な、ななっ…なんで平然と膝枕してんだよっ!?」
「おい、あまり騒ぐな。起きるぞ」
「あ、ご、ごめん……って、俺が謝る必要皆無!」
ついつい謝る癖が出来てしまった自分に突っ込む。
「智光くんっていつも大人びてるところがあるけど…。寝顔、やっぱり…歳相応、だよね」
千裕が、聖母のように優しげに智光を見つめる。言われて、俺も智光の顔を覗き込んだ。
いつも寄っている眉の皺は伸びていて、すごく気持ちよさそうな表情をしてる。
智光はいつも自然体だけど、確かに無防備なところは珍しい。
たかが一つ。されど一つ。……年下、なんだなって改めて思った。
はらりと栗色の髪に落ちた一片の桜を払いながら、その髪を梳くように撫でた。
なんか……可愛いなぁ、こいつ。
これ、言ったら怒られるかなぁ。怒られるだろうなぁ。でも。
「春だから……」
笑って「バッカじゃねーのか、あんた」って言ってくれることを願うよ。
*
花見の季節に書いたもの。ぽかぽか陽気は癒されますね…!
って、よく使うんだよな、俺。
雨だから落ち込むとか。智光じゃないけど、冬だから外に出たくないとか。
で、今は春だからってのを多用してる。
朝も少し肌寒くはあるが、心地いい風はとても過ごしやすくて。
洗濯物はよく乾くし、特に用もないのになんだか外に出たくなる陽気で。
だからなのか、いつもは石のように家に閉じこもって動かない智光も、どこか落ち着かない様子だった。
「えっ、お前、どこか行くのか?」
「……悪いかよ」
「い、いや!悪くない!ただ、珍しいなと思っただけ」
眉に皺を寄せられて、咄嗟に弁解した。
これが春以外の季節だったなら、そのまま不機嫌になって、その日は口も利いてもらえないってことになってただろう。
でも春だから、智光はクスッと笑って、自分の外出先を教えてくれる。
「花見?言ってくれれば、準備もあっただろうに……」
「…すっかり忘れてたんだよ…。こんなことなら、徹夜でゲームやらなきゃ良かったぜ」
「いや、花見が無くてもやらない方がいいって。身体に悪いだろ」
「折角の花見なんだ。説教は後にしてくれよ」
今日こそは注意してやろうと思ったのに何故だか納得させられてしまって…結局俺たちは今、花見会場に来ている。
「よー」
「遅いぞ。これ以上待っても来ないなら、俺たちだけで先に始めようかと思ったほどだ」
「悪い悪い。でも来たから良いじゃねぇか」
いつもの調子で軽く言った智光は、今にもキレそうな秀吉に胸倉を掴まれていた。
「うわぁー…ここ、すごくいい場所だな」
すると、千裕が「秀吉が早朝から睨み効かせて陣取ってた……」って耳打ちしてくれた。
確かに秀吉ならやりそう…というか、正にその光景が目に浮かんで、思わず笑う。
でもその直後、「特等席を取ってやった俺に感謝しろ」と何故か叩かれた。
……こういうの、八つ当たりって言うんじゃないか?
そして、全員がシートに腰を下ろしたら、早速乾杯タイムだ。
と言っても、秀吉が持って来てくれた水筒の桜茶を紙コップに注いだだけなんだけど。
でもなんか、こういうのって良いよな。気分はまるで小学生の遠足だ。
「じゃ、乾杯」
「かんぱーーーい」
智光の合図で、桜茶を啜る。
そして、千裕が持って来た人数分(俺は自分の買って来たけど…)の重箱を開ける。
おにぎりだの、出し巻き卵だの、個々に好きなものを頬張った。
「それにしても、綺麗だなぁ……」
桜の雨って、このことかな。風が吹く度、ほのかな甘い香りが漂ってくる。
そんな中で、俺は友人たちと共に花見をしている。
実に平和だ。平和すぎて、拍子抜けしてしまうくらい。
「……ちょっと、膝貸して」
「え?うん、良いけど」
智光が頭を乗せてきた。
盛大な欠伸をして、ゆっくり目を閉じる。
「こいつ……寝たな……」
「ホントだ。寝ちゃったね」
「そういえば、今日はまた徹夜したって言ってたからさ……仕方ないか」
ん?
当たり前のように会話をしているが、何か、おかしい。
膝の上で規則正しい呼吸をする智光の顔をまじまじと見下ろした。
みるみるうちに、顔が真っ赤になる。
「な、ななっ…なんで平然と膝枕してんだよっ!?」
「おい、あまり騒ぐな。起きるぞ」
「あ、ご、ごめん……って、俺が謝る必要皆無!」
ついつい謝る癖が出来てしまった自分に突っ込む。
「智光くんっていつも大人びてるところがあるけど…。寝顔、やっぱり…歳相応、だよね」
千裕が、聖母のように優しげに智光を見つめる。言われて、俺も智光の顔を覗き込んだ。
いつも寄っている眉の皺は伸びていて、すごく気持ちよさそうな表情をしてる。
智光はいつも自然体だけど、確かに無防備なところは珍しい。
たかが一つ。されど一つ。……年下、なんだなって改めて思った。
はらりと栗色の髪に落ちた一片の桜を払いながら、その髪を梳くように撫でた。
なんか……可愛いなぁ、こいつ。
これ、言ったら怒られるかなぁ。怒られるだろうなぁ。でも。
「春だから……」
笑って「バッカじゃねーのか、あんた」って言ってくれることを願うよ。
*
花見の季節に書いたもの。ぽかぽか陽気は癒されますね…!
そそれは、何の変哲もない、放課後に突如として起こった事件。
「ともちゃーんたーすけてー」
「うわっ、ぷ」
それはもう、酷い棒読み具合の担任、相川が智光に飛びついた。
「助けて」などとぬかす割には、その手は智光の髪をぐしゃぐしゃとかき回して遊んでいる。
これが、仮にも助けを求める者のすることだろうか。
ぴくりと片眉を上げて、眉間に皺が寄ったまま、智光は問う。
「何があったんすか、先生」
ずり落ちそうになっていた黒縁の眼鏡を上げてから、相川は無表情で、逆に問うてくる。
「貴臣くんにキレられました。さて、どうしたら良いでしょうか」
「知らねーよ…つーか、あいつがキレるって、ほんと何したんすか」
「なんだ、その…。この前借りたゲームのセーブデータ上書きしちまってよ……」
「土下座だな」
「いや、ほら、俺、これでも教師だからさ。確かに俺が悪かったけど、生徒にそれは」
「土下座だな」
相川が言い終わるのを待たずに、2回目を言った。
1回目より、「土下座」の部分を強調して。
相川の言いたいことはもちろんわかる。自分が悪いとは言え、教師が生徒に土下座など、あるまじきことだ。
どうしても、どうしてもそれをしなければ収まらないとでもいうのなら、それも一つの策かもしれない。
だが、平和的な解決が出来るのなら、それ以上望むことはない。
もしも自分が相川の立場だったらと考えれば、それは尚更だ。
「俺も一緒に謝ってやるから。大人しく出頭しますか。ほら、あいつマジで鬼だから」
「おう……」
苦い顔をして腕を組む相川の肩を叩き、促した。
相川は着ていたジャージの上着を頭にかぶり、ニュースでよくある光景の真似をしながら、教室を出る。
しばらく探しても見つからなかった為、こうなればあそこしかないと部室に向かった。
仁王像か、お前は。そんなツッコミを心の中でしてしまうくらい、威厳のある物体、もとい秀吉が部屋の真ん中で、パイプ椅子に座っていた。
仁王像。じゃない、秀吉の鋭い双眸で睨まれ、背中が真っ直ぐになる。
「何の用だ……」
地を這うような声に、ぞくりと鳥肌が立つ。
この世に「だいまおう」が存在するのなら、きっとこいつだな。
しかも、最強装備の勇者パーティーを1ターン目でぜんめつさせてしまうような。
だが意外にも、そんな謎の威圧感を醸し出しているというのに、秀吉の体勢は、燃え尽きたボクサーのようだった。
魂が抜けている。とでも言い表した方がわかりやすいか。
宙を仰ぎ、秀吉のいる空間だけ白いように見える。いや、実際には見えてないけど。
そんな悲惨な状況で、言葉を失う相川の背中を押す。
「え、えっとぉ。いやぁ、ほら、先生は、君にだね、非常に申し訳ないことを……」
ストレートに言わないと、と耳打ちをするが、むくりと上半身を起こした秀吉に二人とも目がいってしまう。
「ああ……あれか……。別に、もう気にしていない……」
ホッとするのも束の間、虚ろな瞳の秀吉の口端が、弱々しくつり上がる。
「ひたすらに素材集めの旅に出……せっかく、討伐……あれだけの時間を費やして……」
未練タラッタラじゃねーか!無理して気にしてないとか言うなよ!
ぼそぼそと愚痴りながら、秀吉の脚はガクガクと小刻みに揺れ始める。
いや、そんなに?貧乏揺すりするほど?
確かに自分、または他人のミスでデータ抹消、なんてことは少なくない智光だったが、そこまで落ち込むなんて一度もなかった。
秀吉は精神的にもとても強い(というか、気にしてないだけなんだろうけど)人間だと思っていただけに、そんな意外な姿を目の当たりにし、ぽかんと開口してしまう。
隣を見れば、こうなった元凶である相川はあたふたとして、役に立ちそうにないし。
仕方ない、こうなれば俺が。智光がその場に正座し、両手を床につけ、正に頭を下げようという、その瞬間だった。
「あ」
頭を抱えそうになっていた秀吉が、なんとも気の抜けた声をあげた。
思わず「え?」と聞き返してしまう。
「いや、今思い出した。もう大丈夫だ」
「な、何がだよ」
先ほどまでの邪神でも呼び出しそうなオーラはどこへ行ったのか。
清々しい顔で、秀吉が言い放つ。
「俺としたことが、勘違いしていた。あれ、お前に借りた分のソフトだった。俺は先日中古で買ったから用済みだったんだ」
「うん、そういえばそうだった」と、一人で納得した秀吉は、爽やかな笑みを浮かべている。
よくよく思い返せば、確かにそのゲームは、秀吉に貸したことがあった。
それも、"借りる"と言う名目で実際にはパクられている真っ最中である。だいぶ前のことだから、自分でも記憶から薄れていたが。
秀吉の笑みの何がイライラするかって、それじゃあお前は、友人に借りたものを返すことなくそのまま他人に貸したのかと。
罪悪感は無いのかと。つーか、結局気に入って自分用買うくらいなら、用済み呼ばわりせずにとっとと返せよ!と。
一気に不満を畳み掛けて飯を奢らせるくらいはいつでも出来るだろうが、それよりも智光は今回の騒動の結論を考えていた。
ということは、だ。
秀吉のデータは無事だった。
俺のデータは?
ん?
…………。
現実が追いつくまで、数十秒。
「芳政ァァアアア!!!!」
相川が担任教師だということも綺麗さっぱり忘れた智光の、荒い怒鳴り声が部室にこだました。
*
秀吉が嘆いてたのはきっとモンスターをハントするゲーム(笑)
「ともちゃーんたーすけてー」
「うわっ、ぷ」
それはもう、酷い棒読み具合の担任、相川が智光に飛びついた。
「助けて」などとぬかす割には、その手は智光の髪をぐしゃぐしゃとかき回して遊んでいる。
これが、仮にも助けを求める者のすることだろうか。
ぴくりと片眉を上げて、眉間に皺が寄ったまま、智光は問う。
「何があったんすか、先生」
ずり落ちそうになっていた黒縁の眼鏡を上げてから、相川は無表情で、逆に問うてくる。
「貴臣くんにキレられました。さて、どうしたら良いでしょうか」
「知らねーよ…つーか、あいつがキレるって、ほんと何したんすか」
「なんだ、その…。この前借りたゲームのセーブデータ上書きしちまってよ……」
「土下座だな」
「いや、ほら、俺、これでも教師だからさ。確かに俺が悪かったけど、生徒にそれは」
「土下座だな」
相川が言い終わるのを待たずに、2回目を言った。
1回目より、「土下座」の部分を強調して。
相川の言いたいことはもちろんわかる。自分が悪いとは言え、教師が生徒に土下座など、あるまじきことだ。
どうしても、どうしてもそれをしなければ収まらないとでもいうのなら、それも一つの策かもしれない。
だが、平和的な解決が出来るのなら、それ以上望むことはない。
もしも自分が相川の立場だったらと考えれば、それは尚更だ。
「俺も一緒に謝ってやるから。大人しく出頭しますか。ほら、あいつマジで鬼だから」
「おう……」
苦い顔をして腕を組む相川の肩を叩き、促した。
相川は着ていたジャージの上着を頭にかぶり、ニュースでよくある光景の真似をしながら、教室を出る。
しばらく探しても見つからなかった為、こうなればあそこしかないと部室に向かった。
仁王像か、お前は。そんなツッコミを心の中でしてしまうくらい、威厳のある物体、もとい秀吉が部屋の真ん中で、パイプ椅子に座っていた。
仁王像。じゃない、秀吉の鋭い双眸で睨まれ、背中が真っ直ぐになる。
「何の用だ……」
地を這うような声に、ぞくりと鳥肌が立つ。
この世に「だいまおう」が存在するのなら、きっとこいつだな。
しかも、最強装備の勇者パーティーを1ターン目でぜんめつさせてしまうような。
だが意外にも、そんな謎の威圧感を醸し出しているというのに、秀吉の体勢は、燃え尽きたボクサーのようだった。
魂が抜けている。とでも言い表した方がわかりやすいか。
宙を仰ぎ、秀吉のいる空間だけ白いように見える。いや、実際には見えてないけど。
そんな悲惨な状況で、言葉を失う相川の背中を押す。
「え、えっとぉ。いやぁ、ほら、先生は、君にだね、非常に申し訳ないことを……」
ストレートに言わないと、と耳打ちをするが、むくりと上半身を起こした秀吉に二人とも目がいってしまう。
「ああ……あれか……。別に、もう気にしていない……」
ホッとするのも束の間、虚ろな瞳の秀吉の口端が、弱々しくつり上がる。
「ひたすらに素材集めの旅に出……せっかく、討伐……あれだけの時間を費やして……」
未練タラッタラじゃねーか!無理して気にしてないとか言うなよ!
ぼそぼそと愚痴りながら、秀吉の脚はガクガクと小刻みに揺れ始める。
いや、そんなに?貧乏揺すりするほど?
確かに自分、または他人のミスでデータ抹消、なんてことは少なくない智光だったが、そこまで落ち込むなんて一度もなかった。
秀吉は精神的にもとても強い(というか、気にしてないだけなんだろうけど)人間だと思っていただけに、そんな意外な姿を目の当たりにし、ぽかんと開口してしまう。
隣を見れば、こうなった元凶である相川はあたふたとして、役に立ちそうにないし。
仕方ない、こうなれば俺が。智光がその場に正座し、両手を床につけ、正に頭を下げようという、その瞬間だった。
「あ」
頭を抱えそうになっていた秀吉が、なんとも気の抜けた声をあげた。
思わず「え?」と聞き返してしまう。
「いや、今思い出した。もう大丈夫だ」
「な、何がだよ」
先ほどまでの邪神でも呼び出しそうなオーラはどこへ行ったのか。
清々しい顔で、秀吉が言い放つ。
「俺としたことが、勘違いしていた。あれ、お前に借りた分のソフトだった。俺は先日中古で買ったから用済みだったんだ」
「うん、そういえばそうだった」と、一人で納得した秀吉は、爽やかな笑みを浮かべている。
よくよく思い返せば、確かにそのゲームは、秀吉に貸したことがあった。
それも、"借りる"と言う名目で実際にはパクられている真っ最中である。だいぶ前のことだから、自分でも記憶から薄れていたが。
秀吉の笑みの何がイライラするかって、それじゃあお前は、友人に借りたものを返すことなくそのまま他人に貸したのかと。
罪悪感は無いのかと。つーか、結局気に入って自分用買うくらいなら、用済み呼ばわりせずにとっとと返せよ!と。
一気に不満を畳み掛けて飯を奢らせるくらいはいつでも出来るだろうが、それよりも智光は今回の騒動の結論を考えていた。
ということは、だ。
秀吉のデータは無事だった。
俺のデータは?
ん?
…………。
現実が追いつくまで、数十秒。
「芳政ァァアアア!!!!」
相川が担任教師だということも綺麗さっぱり忘れた智光の、荒い怒鳴り声が部室にこだました。
*
秀吉が嘆いてたのはきっとモンスターをハントするゲーム(笑)
「あ…あのさ、智光」
「んー?」
智光はテレビの前に胡坐をかき、画面に熱烈な視線を向ける。
そこに映っているのは、最近買ったとかいうゲームだ。
手元のコントローラーに忙しなく指を滑らせながら、いつものように気だるい声を返す。
「せっかくの休日なんだしさ、外、出ない?」
「おーい、いま俺が何やってるか見えねえのか」
「ご、ごめん」
ちゃんと見えてる。智光は、このゲームのラスボスと思われるものと対峙してる。
軽く舌打ちをされて、俺は思わず正座になった。
年下にどうしてこうも低姿勢でなければいけないのか。というか、本来はこいつが年上の俺に対して、異常な態度をとっているのに。
ただ、それに苛々していたのは最初だけ。今はもう慣れた。慣れなきゃやってらんない、というのが本音だが。
「うーん…あ、そのゲーム、面白い?俺にも貸してくれよ」
「自分で買え」
「うぐっ……」
やっぱりさっきの、訂正。ムカつくもんはムカつくだろ!
胸の内で苛立ちを募らせている間に、その元凶である智光はコントローラーを置いた。
そして、事前に手元に用意してあったと思われる、残り少ないペットボトルの水を一気に飲み干す。
「あれ、もう終わり?」
「ああ」
「それ…確か昨日買ったとか言ってなかったか?は、早っ…」
「そりゃ、一睡もしないでやってたからな」
エンドロールが流れ出した画面をぼうっと見つめる俺の横で、智光が大きく伸びをした。
睡眠不足から自然と出るあくびも、隠そうとはしない。
智光は、重度のゲームオタクだ。それは自他ともに認めている。ゲームセンターとかに行っても、ありえないくらい高いスコアがあって驚くことがあるけど、そういうのはこいつの仕業だ。
「んで、何だっけ?」
ふと話しかけられて、忘れかけていた本題を思い出す。
「えーと…、だから、たまには外出てみないかって話。気晴らしになるかもしれないし!」
「ふぅん」
1人テンションを上げる俺を横目に、智光は興味無さげに鼻を鳴らした。
だがそれは棘を含んでいて、否定ともとれる。
「行き先決まってんのかよ。それとも、なんとなーく散歩でもしようって訳?」
「そ、それは…まぁ…」
「せめて決めとけ」
これみよがしにため息をつかれた。
ただでさえ気難しい智光を前に、言葉に詰まる。
「…じゃあ、場所によっては良いんだな?」
「嫌だ」
「お、お前な…っ」
怒っちゃダメだ。こいつが調子に乗るから。でも抑えられない苛立ちに、顔が引きつる。
そんな俺に、智光は何の感情も持たない視線を向ける。
「なあ、ほんっとーにダメか?絶対?俺がこんだけ言ってんのに?」
そう簡単に諦めてたまるか。かるい勝負心が芽生えて詰め寄る。
大げさに顔を覗き込むと、智光は眉に皺を寄せた。不機嫌な時のこいつの癖だ。
「うるさい」
「なんでだよ…」
「用も無いのに外へ出たくない。面倒だ」
お笑い番組で見た芸人みたいに、ズコーっと滑った。
智光は何事も面倒か、そうでないかで決める。でも、その判定基準はシビアすぎて俺にはわからない。
…いや、シビアというよりは、本当にこいつの気分次第なんだと思うけど。
グダグダしたいのは俺だってそうだけど、智光は度が過ぎてる。
金持ちで、頭が良くて、体育の授業くらいでしか見たことないけど、運動神経も良い方だ。
男の俺から見ても顔立ちはすごく整ってると思うし、その上ゲームも上手いって、さすがの俺でも天を恨むぞ…?
そういう相手を連れ出す策なんて、いくら考えたって、実行したって、やっぱり失敗するのがオチなんだろうか。
悩みすぎて無言になっていた時、智光の携帯が鳴った。間髪入れず、智光が電話に出る。
「おう、どした?…え、マジ?了解。今から行く」
短い会話だった。
電話を切ってすぐ、智光は外出の準備を始めた。
「ちょっと出掛けるわ」
「えっ…も、もしかして、俺の思いが通じた…!?」
「違えよ。秀吉がいまゲーム大会やってて、俺に参戦依頼」
あっけらかんとした表情で言われて、2度目のズコー。
徹夜明けのはずなのに、今の智光はなんだかすごく元気に見える。そんなにゲームが好きなのか?
ちくしょう。俺がこんなに真剣に考えてやってるってのに!
馬鹿だ、こいつホントに馬鹿だ。でも。
「…あんたも来る?」
広い部屋に一人きりになるのはなんだか居心地が悪くて…。
結局俺は今日も、自分の言うことを聞かせるどころか、こいつの気まぐれに付き合うことしか出来なかった。
「んー?」
智光はテレビの前に胡坐をかき、画面に熱烈な視線を向ける。
そこに映っているのは、最近買ったとかいうゲームだ。
手元のコントローラーに忙しなく指を滑らせながら、いつものように気だるい声を返す。
「せっかくの休日なんだしさ、外、出ない?」
「おーい、いま俺が何やってるか見えねえのか」
「ご、ごめん」
ちゃんと見えてる。智光は、このゲームのラスボスと思われるものと対峙してる。
軽く舌打ちをされて、俺は思わず正座になった。
年下にどうしてこうも低姿勢でなければいけないのか。というか、本来はこいつが年上の俺に対して、異常な態度をとっているのに。
ただ、それに苛々していたのは最初だけ。今はもう慣れた。慣れなきゃやってらんない、というのが本音だが。
「うーん…あ、そのゲーム、面白い?俺にも貸してくれよ」
「自分で買え」
「うぐっ……」
やっぱりさっきの、訂正。ムカつくもんはムカつくだろ!
胸の内で苛立ちを募らせている間に、その元凶である智光はコントローラーを置いた。
そして、事前に手元に用意してあったと思われる、残り少ないペットボトルの水を一気に飲み干す。
「あれ、もう終わり?」
「ああ」
「それ…確か昨日買ったとか言ってなかったか?は、早っ…」
「そりゃ、一睡もしないでやってたからな」
エンドロールが流れ出した画面をぼうっと見つめる俺の横で、智光が大きく伸びをした。
睡眠不足から自然と出るあくびも、隠そうとはしない。
智光は、重度のゲームオタクだ。それは自他ともに認めている。ゲームセンターとかに行っても、ありえないくらい高いスコアがあって驚くことがあるけど、そういうのはこいつの仕業だ。
「んで、何だっけ?」
ふと話しかけられて、忘れかけていた本題を思い出す。
「えーと…、だから、たまには外出てみないかって話。気晴らしになるかもしれないし!」
「ふぅん」
1人テンションを上げる俺を横目に、智光は興味無さげに鼻を鳴らした。
だがそれは棘を含んでいて、否定ともとれる。
「行き先決まってんのかよ。それとも、なんとなーく散歩でもしようって訳?」
「そ、それは…まぁ…」
「せめて決めとけ」
これみよがしにため息をつかれた。
ただでさえ気難しい智光を前に、言葉に詰まる。
「…じゃあ、場所によっては良いんだな?」
「嫌だ」
「お、お前な…っ」
怒っちゃダメだ。こいつが調子に乗るから。でも抑えられない苛立ちに、顔が引きつる。
そんな俺に、智光は何の感情も持たない視線を向ける。
「なあ、ほんっとーにダメか?絶対?俺がこんだけ言ってんのに?」
そう簡単に諦めてたまるか。かるい勝負心が芽生えて詰め寄る。
大げさに顔を覗き込むと、智光は眉に皺を寄せた。不機嫌な時のこいつの癖だ。
「うるさい」
「なんでだよ…」
「用も無いのに外へ出たくない。面倒だ」
お笑い番組で見た芸人みたいに、ズコーっと滑った。
智光は何事も面倒か、そうでないかで決める。でも、その判定基準はシビアすぎて俺にはわからない。
…いや、シビアというよりは、本当にこいつの気分次第なんだと思うけど。
グダグダしたいのは俺だってそうだけど、智光は度が過ぎてる。
金持ちで、頭が良くて、体育の授業くらいでしか見たことないけど、運動神経も良い方だ。
男の俺から見ても顔立ちはすごく整ってると思うし、その上ゲームも上手いって、さすがの俺でも天を恨むぞ…?
そういう相手を連れ出す策なんて、いくら考えたって、実行したって、やっぱり失敗するのがオチなんだろうか。
悩みすぎて無言になっていた時、智光の携帯が鳴った。間髪入れず、智光が電話に出る。
「おう、どした?…え、マジ?了解。今から行く」
短い会話だった。
電話を切ってすぐ、智光は外出の準備を始めた。
「ちょっと出掛けるわ」
「えっ…も、もしかして、俺の思いが通じた…!?」
「違えよ。秀吉がいまゲーム大会やってて、俺に参戦依頼」
あっけらかんとした表情で言われて、2度目のズコー。
徹夜明けのはずなのに、今の智光はなんだかすごく元気に見える。そんなにゲームが好きなのか?
ちくしょう。俺がこんなに真剣に考えてやってるってのに!
馬鹿だ、こいつホントに馬鹿だ。でも。
「…あんたも来る?」
広い部屋に一人きりになるのはなんだか居心地が悪くて…。
結局俺は今日も、自分の言うことを聞かせるどころか、こいつの気まぐれに付き合うことしか出来なかった。
「これで揃ったな」
「おう」
目の前に茶菓子、そして隣に智光が座るのを確認して、俺は一際大きく咳ばらいをする。
「第12回、ゲーム大会の開始だ!!」
ドンドンパフパフ、といういつもの盛り上がりが無いな、と思っていると、智光の容赦ない鉄拳が飛んできた。
それを直前でかわす。相変わらずツッコミのやり方が強引な奴だ。
「…バカヤロウ。二人しかいねぇじゃねーか」
「すまん…今日は皆予定があるらしく、お前しか集まらなかったんだ」
どうせ俺は暇人ですよ、と溜息をつく智光。そんな彼を横目に、本体の電源を入れた。
二人とも好んでいる格闘ゲームのパッケージを開けていると、背後で智光が不機嫌そうに唸る。
振り返ると、見慣れた仏頂面が視界に入ってきた。
「…それよりさあ、新作やんね?ここ来る途中で買ってきた」
そう言って智光が持ち出してきたのは、ホラーゲーム。
昭和の日本が舞台で、独特の雰囲気やプレイヤーの意表をついた恐怖演出から、俺達ゲーマーの中でも特に怖いと有名なものだ。
なにも冬にやらなくても良いとは思うが、好きな作品だから仕方がない。
「死んだ交代は無いとして…あ、驚いた交代は?」
「それも無いだろう」
「…そーだよなあ…」
俺と智光の二人でゲームをする時は基本的に無言、または他愛もない雑談をしながらサクサク進めていくのが普通だ。
それがどんなゲームであろうと関係ない。というか、俺達二人が揃えば積むことも皆無と言える。
「んじゃ、時間交代で」
「わかった」
公平にじゃんけんで操作の順番を決めた結果、先行は俺になった。
早速起動させると、不気味なBGMと共に画面にタイトルロゴが現れる。
まだ二人とも初見なので初めからプレイすることにする。難易度はひとまずノーマルに設定した。
それ以上の難易度はクリア後でないと出現しない為だ。
ムービー部分では、智光のバリバリと煎餅を食う音が気になったが、それでも見入っていた。
「さて、ここからだな」
「ふむ……」
ムービーが終わり、唐突に操作画面に移った。
ホラーではよくあるが、視界が狭く、暗い。
これも今までのシリーズと同じ、いやそれ以上におどろおどろしい演出がなされていると思った。
まあ、今が休日の昼で、部屋には暖かな陽が差し、更に隣の智光が今度は茶を啜っているという台なしのシチュエーションを除けば、の話だが。
しばらくマップを探索していると、突如電話が鳴って、主人公が驚くというシーンが入った。
それにシンクロするように、俺の携帯も鳴る。
「…お前、ホントに微動だにしないよな。感心するよ」
見ずともわかる。智光の仕業だ。
この程度のことで俺がリアクションをとるとでも思っていたのだろうか。
それなら、随分と甘く見られたものだ。
「アホ、余計な真似せんでええ。気が散るわ」
イラッとしたら、大阪弁が出てしまった。
いつもは標準語なのだが、やはり最近まで向こうに住んでいただけに…特に怒りを感じた際に出てしまうことが多い。
正直言うと俺が喋りたい時に、というのもあるが。
それを知っている智光が、小さな声で悪かったよと謝るのが聞こえた。
それからしばらく進めていると、あらかじめ設定しておいた交代時間を告げる携帯のタイマーが鳴った。俺としてはとても良い所だったから残念だったのだが、ポーズをかけて智光にコントローラを渡す。
「期待しているぞ」
「任せとけ」
智光にコントローラを握らせて対等に渡り合えるのは、せいぜい俺くらいだろう。
智光は腕をまくり、自信に満ち溢れた表情でポーズを解いた。
だが、その瞬間。
「うおっ…!?ちょっ…お、まっ…!!」
画面には幽霊の顔がドアップで映し出された。
ボタン連打で難を逃れたものの、もう一度ポーズをかけた後、智光は肩で息をする。
まさかこんなタイミングで一時停止しておくとは思っていなかったとでも言うように、眉に一層濃い皺をつくって、俺を睨む。
「びびったやろ」
「…びびってねえ」
「嘘はあかんわ。思い切り叫んどったやないか」
「お前はいちいちやり方が汚ぇんだよ。眼鏡かち割んぞ」
いかにも不機嫌そうな顔で、俺の胸倉を掴む。
しっかりと俺を捉えた右手は、拳が握りしめられている。
今にも殴られそうだ。本当に割られたことがあるから、あながち余裕ぶってもいられない。
まあ、その時は俺も智光の顔面をグーでいったから、おあいこなのだが。
理由はどうあれ、智光が驚いたという事実は変わらない。一応宥めてから、振り払う。
「驚いた交代やから…ほれ、さっさと貸さんかい」
「って、それ生きてたのかよ!!」
間髪入れない智光のツッコミが、脳天を直撃する。眼鏡は無事だったが、しばらく頭が痛かった。
「お前…自分がやりたかっただけだろ…。ったく、俺が買ったのによ…」
呆れたように呟く智光の愚痴をスルーして、俺はゲーム内に意識を集中させた。
結局その日は、夜になって智光が渋々帰るまで、俺の独壇場だったような気がする。
だが中盤までは進んだので良しとする。
今日は徹夜するとして、このペースでいけば余裕を持ってクリア出来てしまうだろう。
「…そういえば、また返すのを忘れたな」
智光に借りっぱなしにしていたゲームの山が視界に入って、思い出す。
そろそろいい加減に返さなくては。でもそこまで催促されてはいないし…いや、されたような気もしなくもないが。
まあ、次の機会で良いか。
自己解決したところで、俺はまた画面に視線を戻し、ゲームを再開し始めた。
今回のゲームも返すのを忘れて、いい加減にしろと智光にキレられるのは、また別の話だ。
*
冬に書いたものでした。秀吉は基本他人に関心ないだけなんです…たぶんw
「おう」
目の前に茶菓子、そして隣に智光が座るのを確認して、俺は一際大きく咳ばらいをする。
「第12回、ゲーム大会の開始だ!!」
ドンドンパフパフ、といういつもの盛り上がりが無いな、と思っていると、智光の容赦ない鉄拳が飛んできた。
それを直前でかわす。相変わらずツッコミのやり方が強引な奴だ。
「…バカヤロウ。二人しかいねぇじゃねーか」
「すまん…今日は皆予定があるらしく、お前しか集まらなかったんだ」
どうせ俺は暇人ですよ、と溜息をつく智光。そんな彼を横目に、本体の電源を入れた。
二人とも好んでいる格闘ゲームのパッケージを開けていると、背後で智光が不機嫌そうに唸る。
振り返ると、見慣れた仏頂面が視界に入ってきた。
「…それよりさあ、新作やんね?ここ来る途中で買ってきた」
そう言って智光が持ち出してきたのは、ホラーゲーム。
昭和の日本が舞台で、独特の雰囲気やプレイヤーの意表をついた恐怖演出から、俺達ゲーマーの中でも特に怖いと有名なものだ。
なにも冬にやらなくても良いとは思うが、好きな作品だから仕方がない。
「死んだ交代は無いとして…あ、驚いた交代は?」
「それも無いだろう」
「…そーだよなあ…」
俺と智光の二人でゲームをする時は基本的に無言、または他愛もない雑談をしながらサクサク進めていくのが普通だ。
それがどんなゲームであろうと関係ない。というか、俺達二人が揃えば積むことも皆無と言える。
「んじゃ、時間交代で」
「わかった」
公平にじゃんけんで操作の順番を決めた結果、先行は俺になった。
早速起動させると、不気味なBGMと共に画面にタイトルロゴが現れる。
まだ二人とも初見なので初めからプレイすることにする。難易度はひとまずノーマルに設定した。
それ以上の難易度はクリア後でないと出現しない為だ。
ムービー部分では、智光のバリバリと煎餅を食う音が気になったが、それでも見入っていた。
「さて、ここからだな」
「ふむ……」
ムービーが終わり、唐突に操作画面に移った。
ホラーではよくあるが、視界が狭く、暗い。
これも今までのシリーズと同じ、いやそれ以上におどろおどろしい演出がなされていると思った。
まあ、今が休日の昼で、部屋には暖かな陽が差し、更に隣の智光が今度は茶を啜っているという台なしのシチュエーションを除けば、の話だが。
しばらくマップを探索していると、突如電話が鳴って、主人公が驚くというシーンが入った。
それにシンクロするように、俺の携帯も鳴る。
「…お前、ホントに微動だにしないよな。感心するよ」
見ずともわかる。智光の仕業だ。
この程度のことで俺がリアクションをとるとでも思っていたのだろうか。
それなら、随分と甘く見られたものだ。
「アホ、余計な真似せんでええ。気が散るわ」
イラッとしたら、大阪弁が出てしまった。
いつもは標準語なのだが、やはり最近まで向こうに住んでいただけに…特に怒りを感じた際に出てしまうことが多い。
正直言うと俺が喋りたい時に、というのもあるが。
それを知っている智光が、小さな声で悪かったよと謝るのが聞こえた。
それからしばらく進めていると、あらかじめ設定しておいた交代時間を告げる携帯のタイマーが鳴った。俺としてはとても良い所だったから残念だったのだが、ポーズをかけて智光にコントローラを渡す。
「期待しているぞ」
「任せとけ」
智光にコントローラを握らせて対等に渡り合えるのは、せいぜい俺くらいだろう。
智光は腕をまくり、自信に満ち溢れた表情でポーズを解いた。
だが、その瞬間。
「うおっ…!?ちょっ…お、まっ…!!」
画面には幽霊の顔がドアップで映し出された。
ボタン連打で難を逃れたものの、もう一度ポーズをかけた後、智光は肩で息をする。
まさかこんなタイミングで一時停止しておくとは思っていなかったとでも言うように、眉に一層濃い皺をつくって、俺を睨む。
「びびったやろ」
「…びびってねえ」
「嘘はあかんわ。思い切り叫んどったやないか」
「お前はいちいちやり方が汚ぇんだよ。眼鏡かち割んぞ」
いかにも不機嫌そうな顔で、俺の胸倉を掴む。
しっかりと俺を捉えた右手は、拳が握りしめられている。
今にも殴られそうだ。本当に割られたことがあるから、あながち余裕ぶってもいられない。
まあ、その時は俺も智光の顔面をグーでいったから、おあいこなのだが。
理由はどうあれ、智光が驚いたという事実は変わらない。一応宥めてから、振り払う。
「驚いた交代やから…ほれ、さっさと貸さんかい」
「って、それ生きてたのかよ!!」
間髪入れない智光のツッコミが、脳天を直撃する。眼鏡は無事だったが、しばらく頭が痛かった。
「お前…自分がやりたかっただけだろ…。ったく、俺が買ったのによ…」
呆れたように呟く智光の愚痴をスルーして、俺はゲーム内に意識を集中させた。
結局その日は、夜になって智光が渋々帰るまで、俺の独壇場だったような気がする。
だが中盤までは進んだので良しとする。
今日は徹夜するとして、このペースでいけば余裕を持ってクリア出来てしまうだろう。
「…そういえば、また返すのを忘れたな」
智光に借りっぱなしにしていたゲームの山が視界に入って、思い出す。
そろそろいい加減に返さなくては。でもそこまで催促されてはいないし…いや、されたような気もしなくもないが。
まあ、次の機会で良いか。
自己解決したところで、俺はまた画面に視線を戻し、ゲームを再開し始めた。
今回のゲームも返すのを忘れて、いい加減にしろと智光にキレられるのは、また別の話だ。
*
冬に書いたものでした。秀吉は基本他人に関心ないだけなんです…たぶんw
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