一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「…まさかこんな事で釣られるなんて…」
「いや、気にしないでよ。どんな形であれ、智光くんが更正してくれれば、明王院さんにとってはありがたいと思うから」
週末、俺は千裕と明王院家に向かっていた。
学校の傍が金持ちが集まるセレブ街だという事は知っていたが、こんなにも近くだとは思わなかった。普段は滅多に近付かないルートだから、気にすることもなかったが。
「でもさ、歳が近い奴って…お前じゃ駄目なの?何回か会った事あるんだろ?」
「まぁ、そうなんだけど…僕には合わなさそうだったから…」
「何それ、性格が合わなさそうだったから俺に押し付けた、ってこと?」
「あはは、違うよ。頼もしい敦だからだって」
なんて、談笑してるうちに目的地に着いた。
「うわっ…すげー…」
想像はしていたが、テレビで見るような豪邸を目の前にして、自然と声が出てしまった。
豪邸の前には巨大な漆黒の門があって、その向こうにはこれまた壮大な庭が広がっている。
ついつい見とれて、俺は生唾を飲み込んだ。
「さてと、こっちだよ」
「え?」
でっかい正面門から入るのだと思いきや、草花が生い茂った、家のちょうど裏側に案内される。
普通にインターホンがあって、ポストがあって、派手な装飾もない玄関。見た目はすごく地味だ。
見ただけではわからないほどには金が掛かっているのかもしれないが、俺の家と変わらないように思う。
「あ、れ…意外と庶民的?」
「あの正面門がいちいち開いてたら目立つでしょ?普段はこっちから出入りするんだ」
この豪邸を見ても驚きもしない千裕を見て、彼がセレブだったことを思い出す。
千裕の実家は、テレビでも見ることのある華道家である。その関係で、明王院さんとは親同士が仲が良いらしい。まあ、確かにそうでもなければこんな機会は一生に一度あるかどうかだろうな。
千裕が合鍵を使って中に入ると、俺もお邪魔しますと声に出しながら続く。
明王院家の内部は、家具が少なく片付いていて、あまり生活感がなかった。でも、所々に飾ってある置物やら絵画やらは、素人目から見ても価値のあるものなんだろうなと思う。
そして、三階にある部屋の前で千裕は足を止めた。
「智光くん?僕だけど、例の人を連れて来たから…入るよ?」
やっべ、緊張してきた。胸に手を当て、深呼吸し、自分なりの満面の笑みを作る。
そして、ドアが開けられるのと同じタイミングで、声をかけた。
「ど、どうもこんにちっ…………は」
こうも間が空いてしまったのは噛んでしまったからではない。いや、ちょっとそれもあるけど。
視界に飛び込んで来たものが、信じられなかったからだ。
「……何だよ?」
そういう彼は、仏頂面で愛想なんてあったもんじゃない。ゲームをやっていたのだろうか、コントローラーを手に、不機嫌そうな顔でこっちを見ている。
「…っ、ああ、智光くん、この人が君に話した…」
「お、織田敦です。よろしく、智光…くん?」
苦笑いで話を降る千裕に続き、挨拶をする。
そんな俺を見て、彼はふぅんと鼻で笑うと、視点をテレビに戻してゲームを再開し始めた。
鼻で笑われた…というか、とりあえずそのゲームを止めろ!俺、一応は目上の人なんですけど…!?
「ち、ちょっと、智光くん…挨拶くらいはしよう?ねっ?」
さすがの千裕も少し慌てて、注意した。すると、ゲームを続ける手はそのままに、面倒臭そうに答える。
「明王院智光です。ま、短い間でしょうがよろしくお願いしますね、織田さん」
む、ムカつく…!!
敬語を使ってるのは良いけど…短い間、って何だよ!?早々に俺を追い出すつもりか!?
ちらりと千裕の方を見ると、小さな声でゴメンと言われた。
『僕には合わなさそうだったから…』
(俺も合わなさそうなんだけど…!!)
千裕に言われた事の意味を理解し、泣きたくなった。
「えーっと…あのさ、智光くん。何かして欲しいこととか無いの?遠慮しなくて良いんだぞ?」
「…別に。ホントにねぇから」
あれから30分。千裕は逃げるように帰り、俺は部屋にこの智光くんと二人きり。
当の本人と言えば、さっきからゲームを黙々とやってるし、こちらが何か喋れば簡潔に、かつイラッと来る答えを返される。実に居心地が悪い。
「そ、そうは言っても…。ほら、俺、今日からここに住む訳だし…」
実はこの件は、住み込みというのが条件だった。
明王院さんは、今は仕事が忙しく海外にいる。当然、明王院さんは智光くんも連れて行くつもりで…でも、肝心の本人はそれを断ったそうだ。
この歳で、それも引きこもりがちな子が海外暮らしなんて少し無理があるよな。俺だって、急に海外へ行くからついて来いなんて言われたら、日本に残る方を選ぶかもしれない。
けど、このでかい家にたった一人で住むというのはある意味、突然の海外生活と同じくらい無謀なんじゃないか?
金銭には困っていないから、防犯や家政婦などの態勢は整えられているとはいえ、親にとって子はいついかなる時も心配で仕方ないものだ…という訳で、俺は智光くんのお守りをすることになっている。いわゆる、メンタルフレンドってやつだ。
豪邸にタダで住めるとあって、普通は断る奴なんて居ないだろう。え、それに釣られた俺が言っちゃ駄目?あ、そう。できたら人間らしい判断だと言ってくれたまえ。
「別に俺は、あんたに一緒に住んでくれなんて頼んだ覚えはねーよ?大丈夫、あんたのことは空気だと思うことにするから」
ああやばい。ムカつく。
決して短気な方では無いが、こうも目下の奴に冷たい態度をとられると笑っていられなくなる。
あれか?社長の一人息子イコール、傲慢。みたいな、性格の持ち主なんだろうか?もし本当にそうなのであればたまったもんじゃないな。
(大体、不登校児って言ったらなぁ…!)
学園ドラマで一人はいる生徒を思い浮かべ、目の前の奴と比べてみる。
あまりに違いすぎる…。 いや、でも外見だけで決め付けるのは良くないよな。辛い事があったから強気な態度を取っているのかもしれないし…。
「…な、智光くん。その…なんで学校行かなくなったんだ?楽しくなかったのか?もしかして、いじめとか…」
「うわ、すっげー直球」
せめて言い方考えろよとダメ出しされ、若干苛つきながらも、思わず謝ってしまった。
「何か勘違いしてるみてーだけど、俺はホントにそーいうんじゃないから。勉強もできる方だし」
「はは、見栄張っちゃって。そんなこと言って実際はどうせ中の上くらいじゃ」
「全国模試一位…」
「なっ……!?」
そういや、この辺の中学でそんな成績を取った奴がいる、なんて噂を聞いた事があった。
でも、こんな近くに居たなんて…それも、こいつがそうだなんて、俄かに信じられない。が、本当ならできる方なんてレベルじゃない、できすぎだろ!
「そ、そんなに言うならなんで…?」
「理由なんてねーよ。まあ学校生活がつまんなくて…?そんだけ」
…なにか、よっぽどの事情があるかと思ったけど、そういう訳じゃない…多分こいつは、元からこういう性格なんだと思った。と、改めて言うと余計に虚しくなる。
虚しくなりながら智光くんがゲームしてる姿をぼうっと見ていたら、日もすっかり暮れてしまった。
「腹減った」
ずっと無言でゲームをしていた智光くんが、ぼそりと呟いた。
「そ、そうだな。もうこんな時間だし…あ、家政婦さんに夕飯頼んで来ようか。何か食いたいものとかある?」
「家政婦?…あー…もういねぇんだわ。随分前に辞めてもらった」
なんだ、居ないならどうりでさっきから見かけないと思った。…って、いやいや、それってもしかして…本当に一人暮らしってことか?
な、なんて無茶をするんだこいつは…。セレブの考えることはわからん。と言うより、こいつの思考がわからん。
「じゃあ一応聞くけど、あんた料理とか出来る?」
「……え」
えーと……それはつまり、今は家政婦さんもいないから、俺が智光くんの食事を用意しなければならないと。
俺はありがたいことにいつも家に帰れば親が飯を作って待っていてくれているし、家に一人の時はインスタント食品で済ませてしまう。
自分で料理をする機会といえば、家庭科の調理実習くらいだ。
答えを出すならそう、できない。まったくできない。
「…どうせ、何にも出来ないのに報酬って言葉に釣られたんじゃねぇの?」
「そ、んな…事は……」
「ああ、いいって。言い訳なんか聞き苦しい」
「…………」
確かに目先のことに釣られてしまったことが今になって申し訳なくなってきた…。
けど、家政婦さんがいるから生活面は大丈夫だって、俺はただ智光くんの話し相手になるだけでいいって聞いてたから引き受けたのに。
というか、何でこうも心の中を読まれるんだ?こいつエスパー!?
「…腹減ったー…」
二度目の同じセリフは、多少の悪意が込められているように感じた。
あんたのせいでもっと減った、なんて声が聞こえてきそうな目つきで睨まれる。
「…よ、よし。それじゃあ俺…作るよ!見よう見真似でなんとか…」
「別にいい。外食にするから」
俺の提案を即座に否定したかと思うと、智光くんはやっていたゲームの電源を切り、身なりを整え始めた。
「何ボサッとしてんだ。あんたも行くだろ?」
「えっ…いや、でも…」
「…金の心配か?安心しろ、俺の奢りにすっから」
「そ、そうじゃなくて…」
ためらっていると、智光くんが溜息を吐いて言う。
「あんたが不慣れな料理をしたとして、それを俺に食わせられる保証があるか?」
「…や、やってみないとわからないだろ…意外と美味いかもしれないし」
「あんたも頑固だな。いいから、今日は俺に付き合え」
食い下がる俺に苛立ったのか、智光くんが舌打ちをする。結局、その日は半ば強引に同行する羽目になった。
「いらっしゃ…なんだ、智光と…ん?敦?」
「ひ、秀吉!?」
「…同じ高校とは聞いてたが、やっぱり知り合いか」
智光くんに連れて来られたのは、俺もよく知ってる秀吉、の実家の寿司屋だった。
「秀吉…こいつと知り合いなら、お前が立候補すれば良かったんじゃ…」
「そうも思ったが、俺はここを離れる訳にはいかないだろう」
秀吉は卒業したら寿司職人として働きたいらしく、俺達も店によく呼んでくれる。
修行という名目で試食をさせてくれるものだから、そういう意味での人望もあるものだとは思っていたが…。
「ふーん…じゃ、千裕の知り合いではあんたが一番適役だったって事か。千裕もロクな友達がいねぇのな。あ、俺いつもの頼む」
カウンターに座り、さっさと注文する智光くんを見て、更に凹んだ。
よりにもよって、あの秀吉とも繋がってるなんて…この毒舌コンビめ!と心の中で叫ぶものの、目の前の毒舌コンビは他愛もない話をしている。
「今日の鮪は良いものが入ったんだ」
「ん、ホントだ。っつーかお前、また腕を上げただろ、美味い」
「まだお前達くらいにしか出せないんだがな。そう言われると、俺も自信が付く」
(ちぇっ、俺の事なんて無視かよ…)
ダチの店に来てるのに、何だこの空気は…。そういう俺は板挟みが苦手なタイプの人間である。
こいつらの会話に無理に入るのもどうかと思い、一人寂しく出されたお茶をすする。
「で、どうだ?今度は長続きしそうか?」
「…さぁ。本人に聞いてみれば?」
「そうか、そうだな。どうなんだ?敦」
「えっ…な、何が?」
不意に話し掛けられ、ドキリとする。
「智光の件だ。もう辞めたいなんて思っていないだろうな?」
「そ、それは…」
違うと言えば嘘になる。
相手は思春期の人間だ、そんなに簡単にやってのけられるものじゃないってのは分かってるはずだった。
でも、正直こいつは話し合いでどうにかなる奴には思えない。
「…どうせ思ってるだろ。今までの奴らは、俺に勝手にムカついて、勝手に出てった。単に金目的の奴だってたくさんいたんだ。あんただって、俺みたいなのが一番苦手な口だろうし」
「おい、智光…」
「っ……」
何でかな。あいつにそう思われてる事が、いや、あいつが皆そうだと信じ切ってる事の方が、もっとムカついた。
「お、俺は…」
「何だよ」
「俺は…絶対、お前が更正するまで出て行かないからな」
何故そんな事を言ってしまったのか分からない。自分でも、言ってる事を理解するのに時間が掛かったくらいだ。
「へぇ。その強気がいつまで持つか楽しみだな」
「うっさい!俺はそいつらとは違うんだよ!今に見てろ!!」
それだけ吐き捨てると、残りの寿司を全て口に詰め込んだ。
「…後悔しても知らねーぞ?」
そう言う無表情だった智光くんの、いや、智光の口元が微かに緩んだのは見間違いだろうか…。
だが、その言葉に本当に後悔する事になるのは、また別の話だ。
「いや、気にしないでよ。どんな形であれ、智光くんが更正してくれれば、明王院さんにとってはありがたいと思うから」
週末、俺は千裕と明王院家に向かっていた。
学校の傍が金持ちが集まるセレブ街だという事は知っていたが、こんなにも近くだとは思わなかった。普段は滅多に近付かないルートだから、気にすることもなかったが。
「でもさ、歳が近い奴って…お前じゃ駄目なの?何回か会った事あるんだろ?」
「まぁ、そうなんだけど…僕には合わなさそうだったから…」
「何それ、性格が合わなさそうだったから俺に押し付けた、ってこと?」
「あはは、違うよ。頼もしい敦だからだって」
なんて、談笑してるうちに目的地に着いた。
「うわっ…すげー…」
想像はしていたが、テレビで見るような豪邸を目の前にして、自然と声が出てしまった。
豪邸の前には巨大な漆黒の門があって、その向こうにはこれまた壮大な庭が広がっている。
ついつい見とれて、俺は生唾を飲み込んだ。
「さてと、こっちだよ」
「え?」
でっかい正面門から入るのだと思いきや、草花が生い茂った、家のちょうど裏側に案内される。
普通にインターホンがあって、ポストがあって、派手な装飾もない玄関。見た目はすごく地味だ。
見ただけではわからないほどには金が掛かっているのかもしれないが、俺の家と変わらないように思う。
「あ、れ…意外と庶民的?」
「あの正面門がいちいち開いてたら目立つでしょ?普段はこっちから出入りするんだ」
この豪邸を見ても驚きもしない千裕を見て、彼がセレブだったことを思い出す。
千裕の実家は、テレビでも見ることのある華道家である。その関係で、明王院さんとは親同士が仲が良いらしい。まあ、確かにそうでもなければこんな機会は一生に一度あるかどうかだろうな。
千裕が合鍵を使って中に入ると、俺もお邪魔しますと声に出しながら続く。
明王院家の内部は、家具が少なく片付いていて、あまり生活感がなかった。でも、所々に飾ってある置物やら絵画やらは、素人目から見ても価値のあるものなんだろうなと思う。
そして、三階にある部屋の前で千裕は足を止めた。
「智光くん?僕だけど、例の人を連れて来たから…入るよ?」
やっべ、緊張してきた。胸に手を当て、深呼吸し、自分なりの満面の笑みを作る。
そして、ドアが開けられるのと同じタイミングで、声をかけた。
「ど、どうもこんにちっ…………は」
こうも間が空いてしまったのは噛んでしまったからではない。いや、ちょっとそれもあるけど。
視界に飛び込んで来たものが、信じられなかったからだ。
「……何だよ?」
そういう彼は、仏頂面で愛想なんてあったもんじゃない。ゲームをやっていたのだろうか、コントローラーを手に、不機嫌そうな顔でこっちを見ている。
「…っ、ああ、智光くん、この人が君に話した…」
「お、織田敦です。よろしく、智光…くん?」
苦笑いで話を降る千裕に続き、挨拶をする。
そんな俺を見て、彼はふぅんと鼻で笑うと、視点をテレビに戻してゲームを再開し始めた。
鼻で笑われた…というか、とりあえずそのゲームを止めろ!俺、一応は目上の人なんですけど…!?
「ち、ちょっと、智光くん…挨拶くらいはしよう?ねっ?」
さすがの千裕も少し慌てて、注意した。すると、ゲームを続ける手はそのままに、面倒臭そうに答える。
「明王院智光です。ま、短い間でしょうがよろしくお願いしますね、織田さん」
む、ムカつく…!!
敬語を使ってるのは良いけど…短い間、って何だよ!?早々に俺を追い出すつもりか!?
ちらりと千裕の方を見ると、小さな声でゴメンと言われた。
『僕には合わなさそうだったから…』
(俺も合わなさそうなんだけど…!!)
千裕に言われた事の意味を理解し、泣きたくなった。
「えーっと…あのさ、智光くん。何かして欲しいこととか無いの?遠慮しなくて良いんだぞ?」
「…別に。ホントにねぇから」
あれから30分。千裕は逃げるように帰り、俺は部屋にこの智光くんと二人きり。
当の本人と言えば、さっきからゲームを黙々とやってるし、こちらが何か喋れば簡潔に、かつイラッと来る答えを返される。実に居心地が悪い。
「そ、そうは言っても…。ほら、俺、今日からここに住む訳だし…」
実はこの件は、住み込みというのが条件だった。
明王院さんは、今は仕事が忙しく海外にいる。当然、明王院さんは智光くんも連れて行くつもりで…でも、肝心の本人はそれを断ったそうだ。
この歳で、それも引きこもりがちな子が海外暮らしなんて少し無理があるよな。俺だって、急に海外へ行くからついて来いなんて言われたら、日本に残る方を選ぶかもしれない。
けど、このでかい家にたった一人で住むというのはある意味、突然の海外生活と同じくらい無謀なんじゃないか?
金銭には困っていないから、防犯や家政婦などの態勢は整えられているとはいえ、親にとって子はいついかなる時も心配で仕方ないものだ…という訳で、俺は智光くんのお守りをすることになっている。いわゆる、メンタルフレンドってやつだ。
豪邸にタダで住めるとあって、普通は断る奴なんて居ないだろう。え、それに釣られた俺が言っちゃ駄目?あ、そう。できたら人間らしい判断だと言ってくれたまえ。
「別に俺は、あんたに一緒に住んでくれなんて頼んだ覚えはねーよ?大丈夫、あんたのことは空気だと思うことにするから」
ああやばい。ムカつく。
決して短気な方では無いが、こうも目下の奴に冷たい態度をとられると笑っていられなくなる。
あれか?社長の一人息子イコール、傲慢。みたいな、性格の持ち主なんだろうか?もし本当にそうなのであればたまったもんじゃないな。
(大体、不登校児って言ったらなぁ…!)
学園ドラマで一人はいる生徒を思い浮かべ、目の前の奴と比べてみる。
あまりに違いすぎる…。 いや、でも外見だけで決め付けるのは良くないよな。辛い事があったから強気な態度を取っているのかもしれないし…。
「…な、智光くん。その…なんで学校行かなくなったんだ?楽しくなかったのか?もしかして、いじめとか…」
「うわ、すっげー直球」
せめて言い方考えろよとダメ出しされ、若干苛つきながらも、思わず謝ってしまった。
「何か勘違いしてるみてーだけど、俺はホントにそーいうんじゃないから。勉強もできる方だし」
「はは、見栄張っちゃって。そんなこと言って実際はどうせ中の上くらいじゃ」
「全国模試一位…」
「なっ……!?」
そういや、この辺の中学でそんな成績を取った奴がいる、なんて噂を聞いた事があった。
でも、こんな近くに居たなんて…それも、こいつがそうだなんて、俄かに信じられない。が、本当ならできる方なんてレベルじゃない、できすぎだろ!
「そ、そんなに言うならなんで…?」
「理由なんてねーよ。まあ学校生活がつまんなくて…?そんだけ」
…なにか、よっぽどの事情があるかと思ったけど、そういう訳じゃない…多分こいつは、元からこういう性格なんだと思った。と、改めて言うと余計に虚しくなる。
虚しくなりながら智光くんがゲームしてる姿をぼうっと見ていたら、日もすっかり暮れてしまった。
「腹減った」
ずっと無言でゲームをしていた智光くんが、ぼそりと呟いた。
「そ、そうだな。もうこんな時間だし…あ、家政婦さんに夕飯頼んで来ようか。何か食いたいものとかある?」
「家政婦?…あー…もういねぇんだわ。随分前に辞めてもらった」
なんだ、居ないならどうりでさっきから見かけないと思った。…って、いやいや、それってもしかして…本当に一人暮らしってことか?
な、なんて無茶をするんだこいつは…。セレブの考えることはわからん。と言うより、こいつの思考がわからん。
「じゃあ一応聞くけど、あんた料理とか出来る?」
「……え」
えーと……それはつまり、今は家政婦さんもいないから、俺が智光くんの食事を用意しなければならないと。
俺はありがたいことにいつも家に帰れば親が飯を作って待っていてくれているし、家に一人の時はインスタント食品で済ませてしまう。
自分で料理をする機会といえば、家庭科の調理実習くらいだ。
答えを出すならそう、できない。まったくできない。
「…どうせ、何にも出来ないのに報酬って言葉に釣られたんじゃねぇの?」
「そ、んな…事は……」
「ああ、いいって。言い訳なんか聞き苦しい」
「…………」
確かに目先のことに釣られてしまったことが今になって申し訳なくなってきた…。
けど、家政婦さんがいるから生活面は大丈夫だって、俺はただ智光くんの話し相手になるだけでいいって聞いてたから引き受けたのに。
というか、何でこうも心の中を読まれるんだ?こいつエスパー!?
「…腹減ったー…」
二度目の同じセリフは、多少の悪意が込められているように感じた。
あんたのせいでもっと減った、なんて声が聞こえてきそうな目つきで睨まれる。
「…よ、よし。それじゃあ俺…作るよ!見よう見真似でなんとか…」
「別にいい。外食にするから」
俺の提案を即座に否定したかと思うと、智光くんはやっていたゲームの電源を切り、身なりを整え始めた。
「何ボサッとしてんだ。あんたも行くだろ?」
「えっ…いや、でも…」
「…金の心配か?安心しろ、俺の奢りにすっから」
「そ、そうじゃなくて…」
ためらっていると、智光くんが溜息を吐いて言う。
「あんたが不慣れな料理をしたとして、それを俺に食わせられる保証があるか?」
「…や、やってみないとわからないだろ…意外と美味いかもしれないし」
「あんたも頑固だな。いいから、今日は俺に付き合え」
食い下がる俺に苛立ったのか、智光くんが舌打ちをする。結局、その日は半ば強引に同行する羽目になった。
「いらっしゃ…なんだ、智光と…ん?敦?」
「ひ、秀吉!?」
「…同じ高校とは聞いてたが、やっぱり知り合いか」
智光くんに連れて来られたのは、俺もよく知ってる秀吉、の実家の寿司屋だった。
「秀吉…こいつと知り合いなら、お前が立候補すれば良かったんじゃ…」
「そうも思ったが、俺はここを離れる訳にはいかないだろう」
秀吉は卒業したら寿司職人として働きたいらしく、俺達も店によく呼んでくれる。
修行という名目で試食をさせてくれるものだから、そういう意味での人望もあるものだとは思っていたが…。
「ふーん…じゃ、千裕の知り合いではあんたが一番適役だったって事か。千裕もロクな友達がいねぇのな。あ、俺いつもの頼む」
カウンターに座り、さっさと注文する智光くんを見て、更に凹んだ。
よりにもよって、あの秀吉とも繋がってるなんて…この毒舌コンビめ!と心の中で叫ぶものの、目の前の毒舌コンビは他愛もない話をしている。
「今日の鮪は良いものが入ったんだ」
「ん、ホントだ。っつーかお前、また腕を上げただろ、美味い」
「まだお前達くらいにしか出せないんだがな。そう言われると、俺も自信が付く」
(ちぇっ、俺の事なんて無視かよ…)
ダチの店に来てるのに、何だこの空気は…。そういう俺は板挟みが苦手なタイプの人間である。
こいつらの会話に無理に入るのもどうかと思い、一人寂しく出されたお茶をすする。
「で、どうだ?今度は長続きしそうか?」
「…さぁ。本人に聞いてみれば?」
「そうか、そうだな。どうなんだ?敦」
「えっ…な、何が?」
不意に話し掛けられ、ドキリとする。
「智光の件だ。もう辞めたいなんて思っていないだろうな?」
「そ、それは…」
違うと言えば嘘になる。
相手は思春期の人間だ、そんなに簡単にやってのけられるものじゃないってのは分かってるはずだった。
でも、正直こいつは話し合いでどうにかなる奴には思えない。
「…どうせ思ってるだろ。今までの奴らは、俺に勝手にムカついて、勝手に出てった。単に金目的の奴だってたくさんいたんだ。あんただって、俺みたいなのが一番苦手な口だろうし」
「おい、智光…」
「っ……」
何でかな。あいつにそう思われてる事が、いや、あいつが皆そうだと信じ切ってる事の方が、もっとムカついた。
「お、俺は…」
「何だよ」
「俺は…絶対、お前が更正するまで出て行かないからな」
何故そんな事を言ってしまったのか分からない。自分でも、言ってる事を理解するのに時間が掛かったくらいだ。
「へぇ。その強気がいつまで持つか楽しみだな」
「うっさい!俺はそいつらとは違うんだよ!今に見てろ!!」
それだけ吐き捨てると、残りの寿司を全て口に詰め込んだ。
「…後悔しても知らねーぞ?」
そう言う無表情だった智光くんの、いや、智光の口元が微かに緩んだのは見間違いだろうか…。
だが、その言葉に本当に後悔する事になるのは、また別の話だ。
PR
この記事にコメントする
この記事へのトラックバック
トラックバックURL:
カテゴリー
ブログ内検索