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「……あ」
音楽室、もとい現在の月下学園での自室の扉を開けた瞬間、飛燕は口を声に出したままの形にして固まった。
数秒の間があり、ため息と共に肩を落とす。
こんなところに居たのか、というのが正直な感想だった。
弾けもしないグランドピアノで遊んでいる内に疲れてしまったのか、椅子に腰掛けた誠太郎が何とも気持ち良さそうな顔で眠りについている。
誠太郎がまたエスケープしたと教員から聞き、広い校内を必死で探し回っても見付からず、もしかしたらと諦め半分で立ち寄ってみたらこれだ。
目立つ赤縁の眼鏡を掛けていない為か、ただでさえ子供っぽい顔が更にあどけなく見える。
「誠太郎…?」
肩を軽く揺すぶりながら声をかけてみるが、小さな唸り声が発せられるだけで起きる気配はない。
飛燕は息を吸い込むと、柔らかな誠太郎の髪をぐしゃぐしゃ掻き回しながら、
「誠太郎!おい、起きないか!!」
「うわぁっ!!ふぇ…?」
耳元で響いた怒声に驚いた誠太郎が跳ね起きた。
まだまだ夢心地な彼が「めがね…」と呟き、飛燕はピアノの上に置かれていた眼鏡を手渡した。
「…せんせー、おはよう…」
「はい、おはよう。もう夜だけどな」
目を擦る誠太郎に腕時計を見せながら、時刻を示す。まだ夕方ならば少しは寝かせてやっても良かったが、そろそろ教員も終業になる。早く家に帰してやらなければならない。
「歩けるか?送るよ」
「うん…」
大きなあくびをして鞄を肩にぶら下げると、誠太郎はまだ眠そうに手を握ってきた。
離す理由もなく、まあいいか、と思ってしまった自分も大概甘い。
「せんせー、僕ねせんせーの夢見たの」
すっかり薄暗くなった廊下を歩きながら、誠太郎がこちらを見上げる。
「俺の?」
「せんせーがむかえにきてくれる夢。正夢になったよ!」
「そ、そう。良かったな」
満面の笑みで繋いだ手をぶんぶんと振ってくる。
その手の平からは外見以上に言葉がマシンガンのように溢れ出し、今のように疲れている時なんかはほとほと参ってしまう。
電波というのは正にこういう人間のことかもしれない。
全ての声をバカ正直に聞き入れてしまわないよう力をコントロールしながら話を進める。
「なあ誠太郎。何で音楽室にいたんだ?」
「んーと…おちつけるから!…かなぁ?」
「音楽室にいると良いのか?」
「なんかねー、ふしぎと寂しくないんだ。せんせーの匂いがするし…。でも、せんせーと一緒はもっと良い!」
あまりにも無垢な物言いに、堪え切れず吹き出してしまった。
けろりとした表情で、誠太郎が足を止める。
「せんせーなにがそんなに面白いの?」
「はは。何でも。誠太郎があんまり可愛いから、つい、な」
言いながら、頭を撫でてやる。
誠太郎は確かに子供っぽいところはあるものの知能的には何ら問題はないし、むしろ勉強はよく出来る方だ。
ただ、どうやら彼は「世間一般的」な考え方が抜けて育ったようだ。
それの一つに恋愛がある。寂しさを埋めてくれる飛燕が恋しい。それは性を越えた純粋で、真っすぐな気持ちだ。
自分の性癖からして同性は大歓迎な訳だが、難しいことは考えない主義である誠太郎は飛燕においても心地の良い存在である。
頭を撫でているうちにそれだけでは足りなくなって、その華奢な体を抱きしめる。誠太郎はくすぐったそうに身を捩らせるものの、受け身だ。
「…お前ってほんと癒しだよな」
「癒し?せんせー僕といると癒される?」
「うん」
「どのくらいー?」
「どのくらい…って、難しいこと聞くな」
直球すぎる質問に、飛燕は頭を掻きながら笑う。
困り果てて誠太郎の髪に鼻を寄せると、独特な甘い匂いがした。
「ん~?そうだな……食べてしまいたい……くらいかな」

…お前はふわふわのマシュマロみたいな味がしそうだ。

■ツイッターにて診断のお題「食べてしまいたい」でした。ありがとうございました!
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