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司の自宅は郊外にあり、瓦の屋根に庭園には松の木、池にはもちろん鯉、と今時珍しい和風の家だ。
広大な敷地面積を誇り、周りに住宅も少ないことから、花火大会のある日は自宅の縁側から花火を一望できる。
そんな真夏。如月夫婦はハワイ旅行の為、司だけを残して家を空け、そして司は何故か俺を自宅に呼んだ。
寂しいからかとも考えたが、実際は下心もなく、ただ俺と花火を見たいらしい。
直接司の家を訪れると、浴衣姿の司が出迎えた。
学園で生真面目に着ている制服とはまた違う雰囲気だ。成人と言われればそうも見えるだろう。
珍しいなと素直な反応を零せば、司は俺を不満げに見つめ、Yシャツの襟を掴んで引き寄せる。
「まったく、なんて暑苦しい…。ムードの無い奴め。今日くらいめかしてこい」
相変わらず度のきつい眼鏡を上げながら、眉間の皺を濃くさせる。
本来ならば照れて言わなそうな台詞だが、完璧主義であるが故に、他人も思い通りにならないことが不満なのだろう。
確かに、俺はジャケットは車に置いてきたこと、Yシャツの腕を捲っていることを除けば、後はいつもと変わらない。
「今から着替えてくるには、花火は間に合わないな」
「安心しろ。そのくらい、私が用意していないと思ったか?」
そうして、妙に自信満々な司に自宅の中へと招き入れられ…結局、二人して浴衣姿になった。
浴衣はまるで俺の為に誂えたような出来に思えたが、口には出さないだけでその予想は正しいようだ。
そのまま「お前にやる」とも言われた。持っていれば来年も着れるだろうと。
ということはその日まで、いやこれからも司は俺と付き合っていくつもりなのか。随分とまあ健気なことだ。
数十分後、花火大会が始まった。
縁側に腰を下ろし、冷えた麦茶を飲みながら、誰にも邪魔されることのない一時を満喫していた。
花火が始まってから口数の少なくなった司を見る。
花火に集中しているのか。髪が汗で張り付き、うちわで扇いでいる姿さえもどこか魅力的に思う。
司の手に、自らの手を重ねる。一瞬びくりと背が跳ねたが、やがて肩に司の頭が寄り掛かる。
「綺麗だな…」
「ああ」
「…お前と一緒にこの風景を見れて、良かった」
今日は珍しいこと尽くしだな。こいつが可愛いことを言うなど。
背に回した手で司の髪を梳きながら、ゆっくりと顔を近付ける。
意図を察した司が胸板に手を置いてきたが、押し返されることはなく、司自ら唇を押し付けてきた。
熱い吐息と小さな愛の言葉は、花火の音で掻き消された。
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