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一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
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『むかしむかしあるところに、仲睦まじい名家の娘と青年がいました。娘と青年は許婚でした。
ところが、娘の正体はなんと月の民だったのです。
月が満ちるその夜、娘は月に帰ってしまいました。
娘はたくさん泣きました。帰りたい。せめてもう一度大切な人達に会いたいと泣きました。
たいそう悲しんだ娘は、遂に眠りから目を覚まさなくなってしまいました。
娘はそれからずっとずっと、今でも救いを待っています。
いつか救い出された時、娘は長年忘れていた笑顔を見せるのです。
その温かい腕で、救世主を抱きしめるのです。
そうすれば、真っ暗な部屋に光が灯ります。美しい花が咲きます。僕の心も救われます。
もう泣く人はいない、平和な世界が訪れるのです。
僕はそんな素敵な世界をこの目で見たいです。』

「…………」
弟は、兄が書いた絵本を言葉を発することなく読んでいた。
絵本とはいえ一枚の画用紙に線を引き、片方に挿絵、片方に文章、それらを数ページ描いて一冊にまとめているといった簡単ものではあるが。
挿絵も文章も、クレヨンを使った子供らしい柔らかなタッチで描かれていた。同年代の子供と比べても、上手い方だとは思う。
最後のページには、眠りから覚めた娘が救世主と思しき少年と手を繋ぎ、花に囲まれた世界で嬉しそうに笑う絵があった。
――突然別れることとなった娘と青年の悲恋の物語。だが、最後に娘は救われる。差し詰めそんなところか。
「……兄さんらしいな」
平和な世界が訪れると言っておきながら、青年のことは置いてきぼりだ。
悲しんだのは娘だけではない。これには残された青年の苦痛が書かれていない。自分達さえ幸せならそれでいいと思っているのだ。
兄からすれば、それも仕方ないことだが。
もしも青年と娘の再会が叶う展開があろうものならば、それは自身の存在を否定することになる。
――この娘のモデルは、青蓮院麗華。兄弟を産んで死んだ実の母親だ。
青年は霧島蔵之介。麗華の許婚であった男。
そして、麗華を救う救世主は兄…。
妄想と願望に満ち溢れたなんてくだらない物語なのだろうと、弟は鼻で笑う。
次の拍子には、絵本のページを破いていた。
一枚、また一枚。ビリビリと派手な音を立てて破く。
全てのページを破き終わると、弟は床に落ちた紙切れを更に細かく破いていった。塵になったそれは、暖炉の中に焼べた。
兄はせっかく書いた絵本が消えたことを知ると、ぐずって泣き出した。
一度は弟のせいにしても、弟が知らないと言えば鵜呑みにした。
どこまでも愚かな兄を見ているのは、実に愉しかった。
…そうだ。俺も書いてみようか。妄想ではない、これから成し遂げる物語を。
思いつくままに、弟は画用紙とクレヨンを持って部屋に篭った。

『むかしむかしあるところに、仲睦まじい名家の娘と青年がいました。娘と青年は許婚でした。
月が満ちるその夜、娘は神隠しに遭いました。
青年は娘を必死に探しましたが、見つかるはずもありません。本当は悪人が連れ去っただけなのですから。
それでも青年は愛しい娘の無事を信じ、今でも独り身のまま探し続けています。気丈にも涙は見せません。しかし、来る日も来る日も心は泣いています。
娘は悪人達に暴行されました。何故こんな目に遭うのか、何故自分だったのか、そして青年のことを思い出し、毎日泣いていました。
娘は悪人との間にできた悪魔とその贄を産んで死にました。勿体なく思った悪人は、娘を人形にして保管します。
贄は娘が好きです。悪魔も娘が好きです。
でも、悪魔は贄も好きでした。だから娘を燃やしました。悪魔は全てを燃やします。
燃やしたら、みんな灰になってしまいます。
そうすれば――』

弟の絵本は最後のページで途切れていた。
挿絵には、黒い影のようなもの――悪魔が人間達を火あぶりにする様子が、血ほどに赤いクレヨンで描き殴られていた。
とても子供が書いたとは思えない残酷な絵本を眺め、弟の世話係達は、結末を知りたがる。
「まだ書かない。それはこれから実行するんだ」
世話係達は完成が楽しみだと言った。
弟の物語が完結するのは、近い未来。

『そうすれば――世界に絶望が訪れます。そんな醜い世界で、俺は笑っていました』

*

童話調のお話が書きたくて。どんな絵描くんだろう…ガクブル。
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