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一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
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とある男が起こした大量虐殺は、裏社会でもさして知られていない。
知りうる人間も同時に起きた火事で無になったからだ。
長年の仕事のデータ。確かにそこで生きていた人間の存在。
炎は全てを灰にする。
それでも消えることのないものは人の激情。焔だけだ。

孤児であった飛燕は、ある富豪の老人に引き取られた。
ただ人と違ったのは、その老人の家系が現在も続く名家であるということ。
一流ホテルを経営する老人――祖父の元で育ち、富と心に余裕があったからか飛燕は健やな少年に成長していた。
祖父は大変厳格な存在で、最初こそ飛燕に冷たい態度をとっていた。
が、飛燕が成長するにつれわだかまりも溶け、本当の孫…いや、それ以上に可愛がっていた。

「……ん?」
いつもの週末。祖父の家に遊びに来ていた飛燕は、祖父の書斎で読書をしていた。
その日、何気なく手にとった手記。
それは祖父が何より大切にしているものであり、普段は触ることすらないが、ちょっとした悪戯心が働いた故の行動だった。
だが、そこに挟まれていた写真に飛燕は目を奪われた。
古ぼけたそれには、若かりし頃の祖父と、この世のものかと疑うほどに美しい女性が写っている。
仲睦まじく寄り添った二人の関係は、まるで夫婦のように見えた。しかし、祖父にそのような関係になった女性がいたとは聞いたことがない。
その後書斎に入ってきた祖父にばれ、手記を勝手に覗いたことを叱られたが、写真を見つけてしまったことについては特に咎められなかった。
「じいちゃん、これ…誰?」
「ああ、いや、それは…なんだ…」
飛燕は、祖父の気まずい空気を汲み取れる訳もなく、笑顔で聞いてしまう。
祖父は椅子に腰かけると飛燕を傍に呼び寄せ、二人で写真を眺めた。
「その方は…麗華さんと言う」
「れいか?」
「ああ、じいちゃんの…婚約者だった人だ。みんなには内緒だぞ?」
祖父はそう苦笑する。
「じいちゃんは、れいかさんが好きだったのか?」
「…もちろん、好きだったよ。とても…」
「じゃあなんで結婚しなかったんだ?」
そう言って、飛燕は首を傾げる。好奇心に満ちた子供の言葉に、悪意は微塵もない。
だが、それは祖父の胸を深く抉る。
「…したかった…。したかったのに…出来なかったんだ…飛燕…」
低く呻いて、祖父は飛燕をきつく抱きしめた。
驚いて、祖父を見上げる。飛燕にとって強く憧れの存在である祖父は、声を殺して泣いていた。
飛燕は幼心ながら、その姿をはっきりと記憶に焼き付けていた。

後にネットなどで当時のことを調べて判明した事実。天皇家とも親交のある名門・青蓮院の令嬢、失踪事件。
被害者は青蓮院麗華。
生きていれば祖父より一回りほど下の年齢で、艶のある長い黒髪と雪のように白い肌は煌びやかな着物によく似合い、まるで日本人形のような美貌を誇ったと言う。
顔を覚えられて誘拐でもされるのを恐れてなのか、あの写真以外、全く出てこなかった。
それほど大事に可愛いがられていたということだろう。
飛燕は事件や家系を調べるにつれ、この女性のことをもっと深く知りたくなった。
…神隠し。正にそうとしか思えない、不可思議な事件。
一度推理ものを見てしまうと犯人が解るまで気になるのと同じように、単純に興味が湧いた。
「…麗華、さん」
残念ながら飛燕は異性に対して恋愛感情を持つ人間ではなかったが、麗華という文面でしかわからない女性には、何故か引き寄せられるように執着した。

実父も、その父も、共に麗華に執着したことなど、当時の飛燕には知る由もなかった。
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