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爽やかな風の吹く5月。
体格よりも少しだけ大きな制服に身を包み、如月司はその日も校内へと足を踏み入れる。
背後から女子生徒の黄色い悲鳴が聞こえ、司にはそれだけで誰が登校してきたのか想像がついた。
誰がそう呼び出したのかは知らないが、その彼は女子の間で「王子様」と呼ばれている。しかし気品溢れる彼は、司にとって確かに心の底から尊敬できる人間であった。
無愛想な顔を少しだけ明るませて、振り返る。
「先輩、おはようございます」
「ああ、おはよ!」
彼――霧島飛燕は小走りで近付いて来て、司の軽く肩を叩いた。
「司、高等科はもう慣れたか?」
「ええ、まあ…」
そんなことを話しながら、二人は教室棟へと歩を進める。
飛燕とは、最初は親同士の付き合いで顔を合わせるだけの関係であった。
二学年の差があることもあり、普通はそこまで仲良くはならないものだろう。
しかし二人を繋げたのは音楽だった。司にとっては半強制的に習わされていた面白みのないものだったが、飛燕のおかげでそれを楽しいと思えるようになったのだ。
司でも解らない勉強を丁寧に根気強く教えてくれるし、そのおかげで成績が伸びていることを感じてさえいる。
それほどに飛燕は、影響力のある人なのだ。
もちろん誰しも愚痴を言いたくなったり、落ち込んだりすることはある。それでも飛燕は真っ先に自分より他人を気遣う人間だ。
何故この人はこんなにも希望に満ち溢れた素晴らしい人なのだろう、と司はいつも思う。
「…先輩」
「なに?」
「…僕も、先輩みたいになれますか…?」
ふと、司はずっと募らせていた疑問を投げ掛けた。
飛燕は少しだけ驚いたようで、「そうだな…」と呟きながら宙を仰ぐ。
「司は、勉強さえできれば全てが上手くいくと思っているか?」
そう聞かれるとは意外だった。しかし、司は首を横に振った。
「それが解ってるなら大丈夫だ。俺がいなくても司は司らしくあることができるよ」
「…寂しいことを言わないで下さい。いくらあと一年だからって、先輩とは大学でも…」
「…あ、あのさ、司」
司の言葉を、言いにくそうに、声量を上げた飛燕が遮った。
力強い意志が込められた瞳が、司をじっと見つめている。
「俺…卒業したら、渡米することに決めたんだ。向こうの大学へ行って、一から音楽を学ぶ。そして気持ちの整理がついたら、また戻ってくるから…」
「な…先輩なら、今でも充分に実力があります。だから、日本でだって…」
「…司…」
切なそうに、飛燕は名前を呼ぶ。
呆れか、落胆か。それとも自身の気持ちを解ってもらえない歯痒さか。どれも合っているだろう。
「…っ、す、すみません…」
「…ううん。こっちこそ…変な話してごめんな」
慌てて謝罪すると、飛燕は「気にすんなよ」と言いながらまた普段の穏やかな笑みを浮かべる。
しかし、その顔にはどこと無く憂いも浮かんでいた。
そんなのは嫌だとは。
貴方がいない日々は寂しいとは、今までに見たことのないような苦い表情をした飛燕を目の前では、とても言えなかった。

――それから二年。
飛燕も無事卒業し、学園の三年生となった司は、もうすっかり身に馴染んだ制服で、校門前の並木道を歩く。
飛燕とは今でも時々メールや手紙は貰うが、やはり海外での生活は充実しつつも何かと忙しいらしい。
司自身も生徒会長として、そして両親の為と必死に勉学に励む目まぐるしい日々の中で、二人はだんだんと疎遠になっていた。
(…先輩なら向こうでもきっと上手くやっていけている。…それなら私も私なりに、自分の道を歩むだけだ)
例えその道が曲がりくねっていようと。
「おや、如月君。おはよう」
「…学園長先生、おはようございます」
例え他者から仕掛けられた奈落が待っていようと。
自らの義を信じて生きる為には、ひたすらに進むしかないのだ。
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