一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
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「俺達小遣い足んなくてさぁ、ちょっと貸してくれよお兄さん」
路地裏に連れて行かれ、高校生と大学生が入り混じった男達に取り囲まれる。
今時の若者はどうしてこうも粗暴なのだろうか。
これが楽な稼ぎ方だとでも思っているなら、笑ってしまう。
「オイ、テメェ人の話聞いてんのか?」
「もしもーし?…あー、駄目だコイツ。俺らを見てもいねぇ」
「ムカつく野郎だな…コイツ、サンドバックにしちゃう?」
殴って済むのなら幾らでも殴ればいい。
お前らみたいなクズの暴力なんか、痛くも痒くもない。
男達の一人が俺の胸倉を掴み、拳を思い切り振り下ろした。
殴り飛ばされた後は、地面にうずくまる俺を、男達は寄ってたかって蹴り始める。
まるでゴミでも見るような目だ。でも、それも仕方ない。俺はゴミと何ら変わらない存在なのだから。
うっすらと目を開ければ、路地裏に一人、学ランを着た真面目そうな少年がやって来るのが見えた。
こっちへ来ちゃ駄目だ。そう思ったのもつかの間、少年は難しそうな数学の本を片手に、男達の肩を叩く。
「お前ら…なに格好悪ぃことやってんだ」
声変わりをしたばかりのような声の癖に、不思議と威圧感があった。
「なんだとこのガキ…!」
「えっ、ちょっ、ヤバイですって、コイツ東中の蓮見じゃ…!?」
「誰だそれ?知らねぇなぁ」
苛立っていた男達は、そのはけ口を今度は蓮見と呼ばれた少年に向ける。
少年はこれみよがしに深いため息を吐くと本をしまい、殴り掛かろうとしていた男の腕を捩り上げると――その後の光景は、暴力を振るっているというのに、実に鮮やかだった。
男達は血相を変えて逃げて行き、少年は一仕事終えたように砂埃を払う。
まるでヒーローショーでも見ているかのような感覚に陥った。
「おい、大丈夫か」
少年は俺に手を差し延べる。
その好意を首を振って否定すると、彼は無理矢理俺の腕を掴んで起こしてきた。
「怪我は…特にないみたいだな。あいつら、最近ここらで悪さしてる不良グループでな、また喧嘩吹っ掛けてきやがるかもしれねぇ。あんたも気をつけろよ」
無言でいると、助けてやったのに礼も無しか、とため息を吐いた。
相手が年下だとはいえ、失礼窮まりない態度だとはわかっている。
彼は俺の顔を覗き込むと眉をしかめた。
これは怒らせたな。今度はこいつに殴られるかもしれない。
そう思っていると、彼はハーフなのだろうか、日本人離れした印象の瞳が揺れる。
「哀しい目だな…」
小さく呟いた声が耳に残る。
彼は俺の過去を知らないはずだ。だがそれは、俺にとって初めての…心からの同情のように聞こえた。
「…そんなこと言われたの、初めてだ」
「喋れたのか。良かった、元気な証拠だ」
彼は優しく微笑むと、鞄から先ほどと同じ本を取り出した。
それ以上は何も言わず背を向けると、ひらひらと手を振って、去って行く。
俺はその小さくも大きな背中を、ただただ呆然と眺めていることしかできなかった。
*
「ああ、坊ちゃん。ご無事で何よりです」
「あんまり一人歩きはよして下さいよ。貴方にもしものことがあれば、俺らの首だって飛びかねないんですから…」
何事も無かったかのように送迎の車に乗り込んだ蓮見は、構成員の心配そうな視線を肌に感じながら、手元の本に視線を落とす。
「悪い悪い。面白い兄ちゃんがいたんでな、つい絡んじまった」
苦笑しながら、蓮見は先ほど不良グループにフクロにされていた彼を思い出す。
あれほど一方的に酷い暴行を受けていたというのに、彼は無傷だった。
…無傷?ありえない。そんなことがあるのか…?
実際、文武に長けた蓮見でさえ、防御の難しさは身を持って痛感している。
ぱっと見、特に身体を鍛えているようには…それどころか冴えないガリ勉にしか見えなかったし、ただ運が良かっただけなのか…。
いや、それはないか。あれは凡人が鍛えてどうにかなるものじゃない。
何か、別の本能的な…野性的な護身の術を、彼は既に心得ているように思えた。
「あの兄ちゃん…俺より強いかもしれねぇ…」
冗談はよして下さいよと苦笑する構成員の間で、蓮見は難しい表情で呟いた。
その数日後――鷲尾が暴行を受けたのと同じ路地裏。
あの時の不良グループは、一人の謎の男に襲撃され、壊滅的被害を受けた。
その男に変わった特徴はなく、強いて言えば…哀しい目をした高校生。それだけだった。
リーダー格の男でさえ意識不明にまで追い詰められたその全てを見ていた男は、あまりの恐怖に顔を歪ませる。
「ほ、報復かっ!?俺らがあんたをリンチしたから…」
「人を探してるだけだって言っただろ。物覚えの悪い奴だな…」
謎の男――鷲尾は下っ端らしい男に馬乗りになり、胸倉を掴む。
「蓮見って奴のことが知りたいんだ。お前、この間言ってただろ」
「お、俺も詳しくは知らねぇよっ。でも聞いた話じゃ…東中の裏番で…極道の…龍真組の実子だって噂もあるくらいで…」
極道…まるで何かに支配されたようにその言葉を復唱する。
龍真組といえば、今や数万人の構成員が属しているとされる巨大組織だ。
いずれそのトップになるであろう彼ならば、あの時感じた威圧感も納得がいった。
今までは、そんなものに触れるのはフィクションの世界だけだと思っていたが。
「な、なぁ、教えたんだからもう良いだろっ。こんなひでぇことはもうやめてくれっ!」
男は引き攣るような声で懇願する。
その声に一切耳を傾けず、鷲尾は冷たく呟いた。
「お前らみたいなクズがいるから世の中荒んでいくんだ…」
言いながら、ゆっくりと首に手をかける。
「俺がお前らにフクロにされていた時、何を考えていたかわかるか?お前らみたいな、どうしようもないクズが真の悪なんだって呆れてたんだよ…」
「ひっ、ひいぃっ!!」
溢れる殺意をモロに浴びて涙目になりながら、男はポケットからぐしゃぐしゃになった札束を取り出した。
「か、金っ、今はこんだけしかねぇけど全部やるからっ!だから勘弁してくれっ、頼むから殺さないでくれよぉ…!」
いざ死と隣り合わせになった今、完全にパニックになったようだ。
どうせこの金は、カツアゲで巻き上げた汚い金なのだろう。
それに金で許してもらえると思っていること自体が許せなかったが、男の行動は不幸中の幸い、鷲尾の自制心を引き戻すきっかけになった。
殺さない。今は、まだ。せめて社会に出るまでは、この手を汚す訳にはいかない。
少年院どころか刑務所に入るようなことになれば、復讐が全て水の泡だ。
「…まあいいか…これ、俺への慰謝料代として取っておくよ」
金をポケットに詰め込んで立ち上がると、鷲尾は怖ず怖ずと後退る男を見下げる。
「野望な真似するんじゃないぞ。…その時はお前も…地獄に道連れにしてやる」
凶器のように鋭い視線が男を射抜くのとほぼ同時に、男は情けない声をあげながら逃げて行った。
辺りに倒れた重傷者を一睨みすると、そのまま現場を去る。
帰路についた鷲尾の足取りは、実に軽やかだった。
鼻歌とスキップが混じり、どこからどう見ても機嫌のいい少年にしか見えない。
「蓮見か…いつかこの借り、返させてもらうからな…」
その時、長らく笑顔を忘れていたはずの鷲尾は、確かに笑っていた。
路地裏に連れて行かれ、高校生と大学生が入り混じった男達に取り囲まれる。
今時の若者はどうしてこうも粗暴なのだろうか。
これが楽な稼ぎ方だとでも思っているなら、笑ってしまう。
「オイ、テメェ人の話聞いてんのか?」
「もしもーし?…あー、駄目だコイツ。俺らを見てもいねぇ」
「ムカつく野郎だな…コイツ、サンドバックにしちゃう?」
殴って済むのなら幾らでも殴ればいい。
お前らみたいなクズの暴力なんか、痛くも痒くもない。
男達の一人が俺の胸倉を掴み、拳を思い切り振り下ろした。
殴り飛ばされた後は、地面にうずくまる俺を、男達は寄ってたかって蹴り始める。
まるでゴミでも見るような目だ。でも、それも仕方ない。俺はゴミと何ら変わらない存在なのだから。
うっすらと目を開ければ、路地裏に一人、学ランを着た真面目そうな少年がやって来るのが見えた。
こっちへ来ちゃ駄目だ。そう思ったのもつかの間、少年は難しそうな数学の本を片手に、男達の肩を叩く。
「お前ら…なに格好悪ぃことやってんだ」
声変わりをしたばかりのような声の癖に、不思議と威圧感があった。
「なんだとこのガキ…!」
「えっ、ちょっ、ヤバイですって、コイツ東中の蓮見じゃ…!?」
「誰だそれ?知らねぇなぁ」
苛立っていた男達は、そのはけ口を今度は蓮見と呼ばれた少年に向ける。
少年はこれみよがしに深いため息を吐くと本をしまい、殴り掛かろうとしていた男の腕を捩り上げると――その後の光景は、暴力を振るっているというのに、実に鮮やかだった。
男達は血相を変えて逃げて行き、少年は一仕事終えたように砂埃を払う。
まるでヒーローショーでも見ているかのような感覚に陥った。
「おい、大丈夫か」
少年は俺に手を差し延べる。
その好意を首を振って否定すると、彼は無理矢理俺の腕を掴んで起こしてきた。
「怪我は…特にないみたいだな。あいつら、最近ここらで悪さしてる不良グループでな、また喧嘩吹っ掛けてきやがるかもしれねぇ。あんたも気をつけろよ」
無言でいると、助けてやったのに礼も無しか、とため息を吐いた。
相手が年下だとはいえ、失礼窮まりない態度だとはわかっている。
彼は俺の顔を覗き込むと眉をしかめた。
これは怒らせたな。今度はこいつに殴られるかもしれない。
そう思っていると、彼はハーフなのだろうか、日本人離れした印象の瞳が揺れる。
「哀しい目だな…」
小さく呟いた声が耳に残る。
彼は俺の過去を知らないはずだ。だがそれは、俺にとって初めての…心からの同情のように聞こえた。
「…そんなこと言われたの、初めてだ」
「喋れたのか。良かった、元気な証拠だ」
彼は優しく微笑むと、鞄から先ほどと同じ本を取り出した。
それ以上は何も言わず背を向けると、ひらひらと手を振って、去って行く。
俺はその小さくも大きな背中を、ただただ呆然と眺めていることしかできなかった。
*
「ああ、坊ちゃん。ご無事で何よりです」
「あんまり一人歩きはよして下さいよ。貴方にもしものことがあれば、俺らの首だって飛びかねないんですから…」
何事も無かったかのように送迎の車に乗り込んだ蓮見は、構成員の心配そうな視線を肌に感じながら、手元の本に視線を落とす。
「悪い悪い。面白い兄ちゃんがいたんでな、つい絡んじまった」
苦笑しながら、蓮見は先ほど不良グループにフクロにされていた彼を思い出す。
あれほど一方的に酷い暴行を受けていたというのに、彼は無傷だった。
…無傷?ありえない。そんなことがあるのか…?
実際、文武に長けた蓮見でさえ、防御の難しさは身を持って痛感している。
ぱっと見、特に身体を鍛えているようには…それどころか冴えないガリ勉にしか見えなかったし、ただ運が良かっただけなのか…。
いや、それはないか。あれは凡人が鍛えてどうにかなるものじゃない。
何か、別の本能的な…野性的な護身の術を、彼は既に心得ているように思えた。
「あの兄ちゃん…俺より強いかもしれねぇ…」
冗談はよして下さいよと苦笑する構成員の間で、蓮見は難しい表情で呟いた。
その数日後――鷲尾が暴行を受けたのと同じ路地裏。
あの時の不良グループは、一人の謎の男に襲撃され、壊滅的被害を受けた。
その男に変わった特徴はなく、強いて言えば…哀しい目をした高校生。それだけだった。
リーダー格の男でさえ意識不明にまで追い詰められたその全てを見ていた男は、あまりの恐怖に顔を歪ませる。
「ほ、報復かっ!?俺らがあんたをリンチしたから…」
「人を探してるだけだって言っただろ。物覚えの悪い奴だな…」
謎の男――鷲尾は下っ端らしい男に馬乗りになり、胸倉を掴む。
「蓮見って奴のことが知りたいんだ。お前、この間言ってただろ」
「お、俺も詳しくは知らねぇよっ。でも聞いた話じゃ…東中の裏番で…極道の…龍真組の実子だって噂もあるくらいで…」
極道…まるで何かに支配されたようにその言葉を復唱する。
龍真組といえば、今や数万人の構成員が属しているとされる巨大組織だ。
いずれそのトップになるであろう彼ならば、あの時感じた威圧感も納得がいった。
今までは、そんなものに触れるのはフィクションの世界だけだと思っていたが。
「な、なぁ、教えたんだからもう良いだろっ。こんなひでぇことはもうやめてくれっ!」
男は引き攣るような声で懇願する。
その声に一切耳を傾けず、鷲尾は冷たく呟いた。
「お前らみたいなクズがいるから世の中荒んでいくんだ…」
言いながら、ゆっくりと首に手をかける。
「俺がお前らにフクロにされていた時、何を考えていたかわかるか?お前らみたいな、どうしようもないクズが真の悪なんだって呆れてたんだよ…」
「ひっ、ひいぃっ!!」
溢れる殺意をモロに浴びて涙目になりながら、男はポケットからぐしゃぐしゃになった札束を取り出した。
「か、金っ、今はこんだけしかねぇけど全部やるからっ!だから勘弁してくれっ、頼むから殺さないでくれよぉ…!」
いざ死と隣り合わせになった今、完全にパニックになったようだ。
どうせこの金は、カツアゲで巻き上げた汚い金なのだろう。
それに金で許してもらえると思っていること自体が許せなかったが、男の行動は不幸中の幸い、鷲尾の自制心を引き戻すきっかけになった。
殺さない。今は、まだ。せめて社会に出るまでは、この手を汚す訳にはいかない。
少年院どころか刑務所に入るようなことになれば、復讐が全て水の泡だ。
「…まあいいか…これ、俺への慰謝料代として取っておくよ」
金をポケットに詰め込んで立ち上がると、鷲尾は怖ず怖ずと後退る男を見下げる。
「野望な真似するんじゃないぞ。…その時はお前も…地獄に道連れにしてやる」
凶器のように鋭い視線が男を射抜くのとほぼ同時に、男は情けない声をあげながら逃げて行った。
辺りに倒れた重傷者を一睨みすると、そのまま現場を去る。
帰路についた鷲尾の足取りは、実に軽やかだった。
鼻歌とスキップが混じり、どこからどう見ても機嫌のいい少年にしか見えない。
「蓮見か…いつかこの借り、返させてもらうからな…」
その時、長らく笑顔を忘れていたはずの鷲尾は、確かに笑っていた。
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