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一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
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「~~♪~~~♪」
目の前の生徒から、上機嫌の鼻歌が聞こえてくる。
だが、状況が状況なだけに蓮見にとっては耳障りなノイズと化していた。
「…いい加減しろクソガキ」
苛々も頂点に上り詰め、遂にイヤホンごと音楽プレーヤーを奪い取った。
「ああっ!何すんねんっ、ちょうどサビ入るところやったのに!!」
「お前な…」
頭を抱える勢いで、ため息を吐く。深く、深く。
ため息は幸せが逃げるなどというが、それが本当ならば蓮見はとっくに不幸のどん底に堕ちているところだろう。
「今日の補習は…お前の為を思って、俺が直々に見てやってるんだぞ?なのにお前は悠長に音楽鑑賞か。教師を馬鹿しているだろう」
「せやなぁ、どっちかと言うと教師やなくて、蓮見センセを」
言い終わる前に、胸倉を掴んでいた。
「ひいぃっ!こ、この暴力教師!いつか訴えたるからな!!」
「うるせぇ、勝手にしろ」
どこぞのバカの幼なじみの方が、よっぽど扱い易いな…。
そう頭の隅で考えながら、なんとか担当教科の数学を教えようとする。
5分も経たずにこちらの話に飽きたのか、鉄夜はペン回しを始めた。
難易度の高い技を次々にこなし、どこか褒めてやりたくなる腕前が、今はカンに障る。
「はーっ、蓮見センセの教え方ってホントつまらへん。教科書通りやん。顔も恐いしなぁ」
「顔は関係ないだろうが」
「どアホやしどケチやし、あと変態やし」
「吊すぞ貴様」
最早ただの悪口を言われ、思わずサングラスを下げて睨む。
だが鉄夜は、普通の人間ならばたじろいでしまう威圧感にも全く怯まず、蓮見の双眸を覗き込む。
「おわ…蓮見センセの目ぇ初めて見た。いっつもグラサンしとるから…。って、あれっ、もしかしてセンセってハーフだったり?」
「まあな」
「へーっ、そうなんや。可愛いおめめやん。ちょっと見直したわ」
「か、可愛い…?」
言われ慣れないことに、戸惑ってしまう。
こういう場合は何と返せば良いのだろう。
褒めているのだろうから、一応礼を言うべきか…いやしかし男に、それも恐面の自分に可愛いはないだろう。
正確には数十秒の間迷っていると、鉄夜はあっけらかんとした表情で言い放つ。
「あっ、別に今のはパーツのみを褒めただけやから、その気にならんといてな。なーんちゃって!」
「…テメェは一生補習しないと気が済まないのか…ああ?」
「うぅぅ…わ、わかった!真面目にやるからっ!睨まんといて!」
確かに扱いの面倒な問題児ではあるが、可愛い生徒に変わりないか。
今度は笑い混じりに、蓮見は幾度目かのため息を吐いた。
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テスト期間というものは、生徒よりむしろ教師の方が忙しいのではないかと思う。
勉強嫌いな者は、期間中の空き時間を遊びに使ってしまうのだし。
既にテストは終わり、今日は結果発表の日。
成績は廊下に張り出され、今回も上位は常連ばかりだ。
だが、その中でも廊下に集まった生徒たちから称賛され、黄色い声を浴び、嫉妬の目で睨まれていたのは、クラスどころか学年で一位の“彼”だ。
今や進学校としても認知度の高い学園内で醜い成績争いの日々を送っている訳だが、努力の甲斐あってか常にトップを保持している。その努力を知らない者には冷たい人間だと言われているらしいが、鷲尾は彼が無情だとは思えなかった。
そんなことを考えながら、いつものようにプリントを作成していると――
「鷲尾先生」
落ち着き払ってはいるが棘のある声で呼ばれ、鷲尾はやっと問題の“彼”、如月司が隣に立っていることに気付いた。
「ああ…如月くん。どうしたんだ?」
「ここの問題、訂正してください」
子供に好かれそうな笑顔で向き直る国語教師の鷲尾を完全に無視し、司は苛ついた様子でデスクに何かを、叩きつける。
訳もわからず、視線を落とす。一枚の解答用紙だ。
氏名の欄には、如月司と神経質そうな文字で書かれている。
怪訝に思いながら用紙を手に取ってみる。
惜しいことに、一問だけ、たった一問だけが間違ったものだ。
訂正って…どういうことだ?これの、どこを…?
「あ……」
教師用の、正しい解答用紙と照らし合わせてみて、初めて気付く。正解であるはずの問題を、誤って間違いだとしてしまっていたのだ。
採点をしたのは紛れも無い、国語担当の自分。
確かこの頃は、テストの採点作業に追われていたことは覚えているが…司と同じく神経質な部分がある鷲尾にとっては、あるまじき失態だ。
「俺のミスだ。今すぐ直すよ」
「やはりか…。まったく、私がこの程度の問題を間違えるとでも?」
…この偉そうな態度さえなければとは時たま思うが、学園には困った人間が多いだけあって既に慣れている。
「如月くん」
「なんですか?」
「はい。本当によく出来たね」
すぐに訂正した解答用紙を、鷲尾は微笑みながら手渡した。
さも当然だという顔でそれを受け取った司だったが、用紙を確認すると目を丸くする。
そこには、「よくできました」と、小学生くらいまでしか見ないであろう、はなまるのスタンプ。
司の顔が、みるみる内に赤くなっていく。
「こ、こんな…父には見せられない…っ」
「そうかな?」
「ふざけないで下さい!」
悪戯っ子のように笑う鷲尾に、司が声を荒げる。
「その方が、可愛いと思ったんだけど。君が頑張っていることも一目瞭然じゃないか」
「そういう問題じゃ…!…はぁ…もう、いいです…ありがとうございました…」
真顔で言い放った鷲尾にこれ以上言っても無駄だと悟ったか、司の声はフェードアウトした。
この教師はなんてことをするんだ、そんな呆れ顔だ。消化不良な姿を見て再び笑いが込み上げ、司に睨まれる。
「またなにかあったらすぐ来いよー」
「っ…もう来ません!失礼しました!」
「間違ったままの方が良かった」などと小言を呟きながら職員室を出て行く司を眺め、鷲尾は忙しくも充実した日々を感じていた。
「オラぁっ!そこサボってんじゃねーぞ!もう休憩は終わりだからな!」
木村の荒い声が飛び、部員は慌てて練習に戻る。
最も、慣れた二、三年生はそれほど真面目に聞いてはいないのだが。
夏休みも中頃に入り、俺と木村は野球部の強化合宿に参加していた。
「相変わらずの熱血指導ぶりだな。お前が居ると更に温度が上がりそうだ」
「あんたが居ると冷えそうだから、それでイーブン。それにしても…何であんたまで居るんだ?」
「まあ、良いだろう」
「ちぇっ…合宿の一週間はあんたの顔見ずに済むと思って、楽しみにしてたのによ…」
嫌そうに目を細め、ガックリと肩を落とす。
だがこれも決して強がりではなく、本心だとよく知っている。
こういう反応が見たくてついて来たと言えば、また怒鳴られそうだが。
「まあしかし、こういう合宿も青春だよなぁ。俺ん時はひたすら練習メニューがきつくて、暴れる寸前だったけど」
「お前の短気はその頃からあったのか」
「いや、まあ…その頑張りもあって甲子園も出れたしな。今は良い思い出だぜ」
どこか誇らしげに学生時代を振り返る。
もっとも、それが木村の人生のピークだったのだろうが。
「木村先生ー!暇してんなら一緒に行きましょうよー!」
部員の一人が、木村に手を振る。
これから合宿所のすぐ隣にある神社へと向かうようだ。
「合宿が終わったら、デートにでも行くか」
「なっ…誰がだ!一人で行け!」
「高級旅館で日帰り温泉旅行」
「よし、行ってくる!」
忘れんなよと念を押し、何とも扱いの楽な教師は部員に混じって走り出した。
その後を追って外へ出れば、この暑さの中、自分よりも10歳ほど若い生徒たちに負けじと、凄まじい勢いで階段を駆け上がっていた。
猪突猛進。彼には正にそんな言葉が似合う。
そんなに急いでいたら…ああ、やはりこけた。
「っくく…」
つくづく面白い男だ。
珍しく満足感を得ながら、練習を見守った。
司の自宅は郊外にあり、瓦の屋根に庭園には松の木、池にはもちろん鯉、と今時珍しい和風の家だ。
広大な敷地面積を誇り、周りに住宅も少ないことから、花火大会のある日は自宅の縁側から花火を一望できる。
そんな真夏。如月夫婦はハワイ旅行の為、司だけを残して家を空け、そして司は何故か俺を自宅に呼んだ。
寂しいからかとも考えたが、実際は下心もなく、ただ俺と花火を見たいらしい。
直接司の家を訪れると、浴衣姿の司が出迎えた。
学園で生真面目に着ている制服とはまた違う雰囲気だ。成人と言われればそうも見えるだろう。
珍しいなと素直な反応を零せば、司は俺を不満げに見つめ、Yシャツの襟を掴んで引き寄せる。
「まったく、なんて暑苦しい…。ムードの無い奴め。今日くらいめかしてこい」
相変わらず度のきつい眼鏡を上げながら、眉間の皺を濃くさせる。
本来ならば照れて言わなそうな台詞だが、完璧主義であるが故に、他人も思い通りにならないことが不満なのだろう。
確かに、俺はジャケットは車に置いてきたこと、Yシャツの腕を捲っていることを除けば、後はいつもと変わらない。
「今から着替えてくるには、花火は間に合わないな」
「安心しろ。そのくらい、私が用意していないと思ったか?」
そうして、妙に自信満々な司に自宅の中へと招き入れられ…結局、二人して浴衣姿になった。
浴衣はまるで俺の為に誂えたような出来に思えたが、口には出さないだけでその予想は正しいようだ。
そのまま「お前にやる」とも言われた。持っていれば来年も着れるだろうと。
ということはその日まで、いやこれからも司は俺と付き合っていくつもりなのか。随分とまあ健気なことだ。
数十分後、花火大会が始まった。
縁側に腰を下ろし、冷えた麦茶を飲みながら、誰にも邪魔されることのない一時を満喫していた。
花火が始まってから口数の少なくなった司を見る。
花火に集中しているのか。髪が汗で張り付き、うちわで扇いでいる姿さえもどこか魅力的に思う。
司の手に、自らの手を重ねる。一瞬びくりと背が跳ねたが、やがて肩に司の頭が寄り掛かる。
「綺麗だな…」
「ああ」
「…お前と一緒にこの風景を見れて、良かった」
今日は珍しいこと尽くしだな。こいつが可愛いことを言うなど。
背に回した手で司の髪を梳きながら、ゆっくりと顔を近付ける。
意図を察した司が胸板に手を置いてきたが、押し返されることはなく、司自ら唇を押し付けてきた。
熱い吐息と小さな愛の言葉は、花火の音で掻き消された。
「停学?…今度は一体、何をしたんだ?」
放課後の校舎裏で堂々と煙草を吹かしながらあっけらかんと自身の処分を言う幼なじみ――柳に半ば呆れながら蓮見が問う。
すると柳は面倒そうに、「半殺し」と答えた。
またか…。まったくこいつは、相手は素人なんだからあれほど抑えろと言ったのに。
蓮見はそれこそ自分が怒鳴り散らしながら柳を半殺しにしたい衝動を押し潰し、深いため息を吐く。
柳の暴力に染まった日々は今に始まったことではない。
とっくに退学になってもおかしくないが、不良の多く集まる傾向のある私立校ということもあって、学校側もほとんど丸投げ状態だ。
尤も、バックに暴力団が存在し…尚且つ、それの血縁であるのは、蓮見と柳くらいのものだろうが。
物心ついた頃から荒れた少年であった柳は、外見も中身も奇抜な為か、案の定、中学の入学早々にいじめに遭った。
だが、その相手を見誤ったことがいじめっ子達にとって運の尽きだった。
自分をいじめた全員を病院送りにした上、そいつらが戻ってくるとパシリと言うより奴隷のような奉仕活動を強要し、それ以来学校に行かなくなったり、辞めた生徒も少なくない。
その後も喧嘩に明け暮れ、学校生活のほぼ毎日、柳の足元でボロ雑巾のように横たわる生徒が目撃された。
高校に上がれば、そんな手癖も少しは改善されると思っていたのに。
なんとも学習能力の足りない奴だと心の中で愚痴りながら、蓮見は柳に向き直る。
「お前…部活は何か入っているのか?」
「入ってないっすよ、つまんねーし」
「そうか…それならうちの剣道部に来たらどうだ?」
「げぇっ、勘弁して下さいよ。坊ちゃんに扱かれたらオレでも無理っす!マジ死にますから!」
蓮見の誘いに、柳は血相を変えて否定する。
元から人数が少ないこともあるが、蓮見は一年でありながら剣道部の部長で、並々ならぬ実力を持った猛者である。
学業にも人一倍励み、割と地味に真面目に学校生活を送っていた。だからこそ蓮見は、柳の暴走が見ていられなかった。
「なら、せめてここを卒業するまでは目立たないよう生きろ。お前には大人しく勉強しろとは言わない…ただ、一心に打ち込めるものを見付けろ」
柳はしばし怪訝そうに蓮見の顔を見つめていると、腕を組み、うんと悩む。
「…じゃあオレ、総合格闘技でもやろっかなぁ。いろいろ出来るしよ、その方がオレらしいと思いません?」
若干面倒臭そうにだが、顔を上げて言った。即決即行動の彼らしく、その目には彼の自信が見て取れる。
格闘技は護身にもなるし、良い案だ。
「ま、オレただでさえ強いし?楽勝っすよね」
「ははは。やる気十分だな」
普段は冷厳な蓮見も思わず笑いながら、余る力を正当なものに使うことを勧めた。
そして、今ならばと蓮見は腹の内を吐き出すことにした。
「柳…前々から言いたかったのだが、その…敬語はやめろ。今の俺達は同級生だろ。普通に接してもらえないと俺も調子が狂う」
「…え?それって…」
柳は目を丸くして、蓮見を見つめる。
数秒の間があり、柳は目をキラキラ輝かせながら詰め寄って、手を握ってきた。
「お、オレ、坊ちゃんのこと、フツーのダチみたいに接して良いんすか!」
「まあ、そういうことだ」
「お…オレも!坊ちゃんとダチになりたかったんすよ!めちゃくちゃ頭良いし、オレよりも喧嘩強えし、人としてマジ尊敬してるっす!神経質なとこは死ねばいいと思ってましたけど!!」
「……一言余計なんだよテメェは」
友情の証のグーパンチが柳の腹にクリーンヒット。
地面に突っ伏して悶絶する柳を蓮見が哀れみを込めた目で睨むまで、さほど時間は掛からなかった。
――蓮見、柳の凸凹極悪コンビが結成されたその日以来、母校には非行少年の憧れる数多の伝説が出来たとか、出来ないとか。
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