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一次創作絵・文サイト。まったりグダグダやっとります。腐要素、その他諸々ご注意を。
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大学に入ってから一人暮らしをしていた兄貴がオレの高校の入学式に出席してくれたと知ったのは、式が終わり、下校の際に校門前で待っていてくれたからだった。
兄貴は、父さんとはあまり会いたくないみたいで…軽い挨拶を済ませると、オレは兄貴と近くのファミレスに入る。
積もる話は山々だ。昼食を摂りながら、お互いに近況を話し合った。
「そういやお前、進路とかもう決まってんの?」
「んー…まあまあ、ね。最近は…教師になりたいかなって」
「…なんで?」
「兄貴を見てたら、なんとなく。それじゃ駄目?」
兄貴はこの春から、隣町の公立高校で体育教師として働いている。
誰もが兄貴は野球選手になるのだと信じて疑わなかっただけに、最初こそ教師になりたいと聞かされた時は驚いた。
けれど、オレはそれも兄貴らしいと思った。ちょっとがさつで、強引で…でも優しいところも人一倍ある。
こういう人なら皆を引っ張っていけるのだと、幼い頃から憧れてきた兄貴を、改めて尊敬した。
「駄目…じゃねえけど、仮に目指すとして、教科は?」
「それは…何が良いかな?」
そう言うと、兄貴はズコーッと滑る真似をしながら笑う。
「もう、真面目に聞いてるんだよ?オレは、兄貴みたいに勉強もスポーツも出来る訳じゃないし、のろまで身体も弱いし…」
「…お前さ、自虐的になりすぎ。人に自慢出来ること、あるじゃねーかよ」
俯きがちになるオレにため息を吐きながら、兄貴が身を乗り出してくる。
「絵だよ、絵。すっげー本格的だからびびったぜ」
「絵…って、兄貴に見せたこと無かったような気がするけど…うわあぁっ、いつの間に見たのっ!?」
「あー…ほら、ベッドの下に隠してあっただろ?まだ同居してる時、てっきりエロ本かと思って…つい…」
あまり人に見せたことのない絵を見られたと知って猛烈に恥ずかしがるオレの前で、兄貴も顔を赤くする。思春期の、それも兄貴みたいにがつがつしたタイプの男子なら、そういう行動に出ちゃうこともあるよね…。
とにかく!と仕切り直して、兄貴が真面目な顔つきになる。
「俺は、芸術とかそういうのはよくわからないけど、お前はセンスあると思う。だから自信持って、お前の好きなことをやれよ。そーだなぁ…この際、美術教師にでもなったらどうだ?」
「あはは。それじゃ、試しに目指してみようかな」
「おま…サクッと決めんな!」
口では悪態をつきながらも、兄貴はその大きな手で頭を撫でてくれた。
暖かくて、嬉しくて、あなたはオレの太陽みたいな存在で。今までもこれからも、ずっとそう。この人と同じ職業に点いて、同じ目線で物事を見たい…。
そんな想いが、ゆっくりと、でも確実に、オレの背中を押した。
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「……あ」
音楽室、もとい現在の月下学園での自室の扉を開けた瞬間、飛燕は口を声に出したままの形にして固まった。
数秒の間があり、ため息と共に肩を落とす。
こんなところに居たのか、というのが正直な感想だった。
弾けもしないグランドピアノで遊んでいる内に疲れてしまったのか、椅子に腰掛けた誠太郎が何とも気持ち良さそうな顔で眠りについている。
誠太郎がまたエスケープしたと教員から聞き、広い校内を必死で探し回っても見付からず、もしかしたらと諦め半分で立ち寄ってみたらこれだ。
目立つ赤縁の眼鏡を掛けていない為か、ただでさえ子供っぽい顔が更にあどけなく見える。
「誠太郎…?」
肩を軽く揺すぶりながら声をかけてみるが、小さな唸り声が発せられるだけで起きる気配はない。
飛燕は息を吸い込むと、柔らかな誠太郎の髪をぐしゃぐしゃ掻き回しながら、
「誠太郎!おい、起きないか!!」
「うわぁっ!!ふぇ…?」
耳元で響いた怒声に驚いた誠太郎が跳ね起きた。
まだまだ夢心地な彼が「めがね…」と呟き、飛燕はピアノの上に置かれていた眼鏡を手渡した。
「…せんせー、おはよう…」
「はい、おはよう。もう夜だけどな」
目を擦る誠太郎に腕時計を見せながら、時刻を示す。まだ夕方ならば少しは寝かせてやっても良かったが、そろそろ教員も終業になる。早く家に帰してやらなければならない。
「歩けるか?送るよ」
「うん…」
大きなあくびをして鞄を肩にぶら下げると、誠太郎はまだ眠そうに手を握ってきた。
離す理由もなく、まあいいか、と思ってしまった自分も大概甘い。
「せんせー、僕ねせんせーの夢見たの」
すっかり薄暗くなった廊下を歩きながら、誠太郎がこちらを見上げる。
「俺の?」
「せんせーがむかえにきてくれる夢。正夢になったよ!」
「そ、そう。良かったな」
満面の笑みで繋いだ手をぶんぶんと振ってくる。
その手の平からは外見以上に言葉がマシンガンのように溢れ出し、今のように疲れている時なんかはほとほと参ってしまう。
電波というのは正にこういう人間のことかもしれない。
全ての声をバカ正直に聞き入れてしまわないよう力をコントロールしながら話を進める。
「なあ誠太郎。何で音楽室にいたんだ?」
「んーと…おちつけるから!…かなぁ?」
「音楽室にいると良いのか?」
「なんかねー、ふしぎと寂しくないんだ。せんせーの匂いがするし…。でも、せんせーと一緒はもっと良い!」
あまりにも無垢な物言いに、堪え切れず吹き出してしまった。
けろりとした表情で、誠太郎が足を止める。
「せんせーなにがそんなに面白いの?」
「はは。何でも。誠太郎があんまり可愛いから、つい、な」
言いながら、頭を撫でてやる。
誠太郎は確かに子供っぽいところはあるものの知能的には何ら問題はないし、むしろ勉強はよく出来る方だ。
ただ、どうやら彼は「世間一般的」な考え方が抜けて育ったようだ。
それの一つに恋愛がある。寂しさを埋めてくれる飛燕が恋しい。それは性を越えた純粋で、真っすぐな気持ちだ。
自分の性癖からして同性は大歓迎な訳だが、難しいことは考えない主義である誠太郎は飛燕においても心地の良い存在である。
頭を撫でているうちにそれだけでは足りなくなって、その華奢な体を抱きしめる。誠太郎はくすぐったそうに身を捩らせるものの、受け身だ。
「…お前ってほんと癒しだよな」
「癒し?せんせー僕といると癒される?」
「うん」
「どのくらいー?」
「どのくらい…って、難しいこと聞くな」
直球すぎる質問に、飛燕は頭を掻きながら笑う。
困り果てて誠太郎の髪に鼻を寄せると、独特な甘い匂いがした。
「ん~?そうだな……食べてしまいたい……くらいかな」

…お前はふわふわのマシュマロみたいな味がしそうだ。

■ツイッターにて診断のお題「食べてしまいたい」でした。ありがとうございました!
自然は好きだ。
それはきっと、抑圧された日々を生きる反動だと思う。
ビーチパラソルの下で、さんさんと照り付ける太陽によって宝石のように輝く海を眺めていた。
本当はすぐにでも砂浜を駆けてその青へ飛び込みたいくらいだが、そうなってはバカンスで浮かれている周りを、更に騒がせることになる。
今日はお忍びだ。ぐっと我慢することにする。
一緒に来ていた誠太郎が、俺のパラソルにとことこ駆け寄ってくる。
「せんせーこれ見つけた!」
言いながら、瑠璃色の巻き貝を見せてきた。
「キレイ?」
「うん…綺麗…だけど、これヤドカリだよ」
「ヤドカリきらい…」
住み処に帰してやれよと促すと、また海へと走り出して行った。
(元気なことだ…)
十代というか、学生というか…いやむしろ誠太郎自身が実年齢より子供っぽいだけに、尚更そう感じるのかもしれない。
帰ってきた誠太郎は柔らかな砂をいじりながら、俺を見上げてくる。
「せんせー泳がないの?」
「ああ。俺が出て行ったら騒ぎになるからな」
「せんせー居ないとつまんないよ…」
誠太郎はこうして時々、憂いの表情を見せることがあった。
それも決まって、孤独を感じた時だ。
いつも仕事で忙しい家族の為か、独りが嫌いで、とても恐れている。
その点、俺は孤児だ。運良く善良な里親に引き取られたものの、思春期は自身の存在価値などを人並みに苦悩した。
誠太郎の気持ちにはなれないが、近くに歩み寄って接することはできる。
「今日は一緒に泳げないけど…それじゃあ、お城作ろうか?」
「作る!」
笑顔が戻ったことに安堵しつつ、誠太郎はまたバケツに水を汲んできた。
「とびきり大きいのがいい!」
はいはい、と呟きながら砂を固め始める。
「なあ誠太郎。今度は室内プールに行こうか。一日貸し切りでさ」
「ううん…」
誠太郎は首を横に振った。
「せんせーと一緒がいい。一緒なら何にもいらない」
可愛い、と思った。
本当の弟のようで、でも恋人である誠太郎。その華奢な身体を抱きしめる。
思わずにやけそうになるのを必死で抑えながら、俺はできるだけ優しく微笑んだ。
「どうだった?今日のライブ」
ライブの盛り上がりもそのままにギターを背負い、隣を歩く彼に話し掛ける。
自らの身分を考えるとこうも軽々しい行動は慎むべきだが、どこにパパラッチが潜んでいようと問題はない。
どうせ、面倒があれば鷲尾達が揉み消すだろうし。
「楽しかったですよ。誘ってくれてありがとうございました。…でも、ちょっと疲れちゃいました。会場の熱気が凄くて…」
「ま、世間は夏休み真っ最中だからな。客の年齢層も若かった気がするし…。ごめんな、無理させて」
「いえ、そんな。オレが身体が弱いのが悪いんです。それに…」
そこで、守は口をつぐむ。言っていいものかと、目だけを動かしてこちらを見遣る。
「毎回思うんですけど…凄く綺麗な女性が貴方を応援してるのを見ると…オレ、なんだか…」
急に頬を赤らめ、俯いてしまった。ここまで素直な反応だと、読心なんて馬鹿らしくなってくる。
「嫉妬してくれてんの?」
「えっ。い、いえ、あの…だって…何も誇れるところが無いオレが、貴方の傍に居て良いのかなって…」
「誇れるところ?そんなの山ほどあるだろ。何なら、箇条書にして見せようか?」
顔を寄せて微笑むと、守は一層肩を縮こまらせる。
どうやら耳元で囁かれることに弱いらしい。
「霧島先生は…なんだか、兄みたいです」
「なんで?同い年じゃん」
「そうなんですけど…頼りがいがあって、情熱的で…」
「褒められるのは嬉しいんだけど、それって兄貴分止まりってこと?」
「ち、違います。それくらい…落ち着くんです。できることなら、ずっと傍に居たい…」
やられた。どうしてこう、初々しくも甘い台詞を突拍子もなく言うのだろうか。
熱い気持ちが込み上げて、真正面から抱きしめる。
「可愛いこと言うなよ…いじめたくなる」
「今日は…疲れてるから駄目ですよ?」
「お預けかよ」
ガックリと守の肩にうなだれると、守は控えめに笑う。
その仕草が可愛くて、下心も空の彼方へ飛んだ。
意外に腹黒いかもしれない彼を愛しく思いながら、抱きしめる腕に力を込めた。
せっかくの夏休みだというのに、学園の教室で、俺は一馬と二人きり、補習授業。
芸能人夫婦の遅くできた一人息子として甘やかされてきた一馬は、生徒には人気があっても、この学園の厳格な教師陣には反感を買うばかりだ。
そこで、臨時で音楽教師をしている俺が一馬の相手を任された。
本業には差し支えない程度だから良いものの…まさかここまで面倒な奴だとは思わなかった。
いくら注意しても授業内容を聞いてないわ、携帯は弄るわ、まず根本的なやる気が無いわで、全く進んでいない。
「あ~もう飽きた。なあ、休憩とろうぜ」
「5分前にとったばかりだろ。ほら頑張れ、アイスあるぞ」
「いらねーよ。一本百円の棒アイスなんて貧乏人が食うもんだろ」
決して短気ではない俺も、さすがにキレた。
胸倉を掴み、引き寄せる。
「王子様気取りもいい加減にしろよ」
「ふ、フンッ。そのくらいの脅しで俺が…」
「そんなこと言って、留年にでもなったらどうする?ただでさえお前の成績と出席日数じゃ危ないのに…わかってるのか、一馬くん?」
わざとらしく名前を呼ぶ。普段よりも低い俺の声に、一馬はバツが悪そうに唸った。
さすがに、留年は避けたいらしい。俳優になって、将来父親と共演することが夢である一馬にとって、そんな失敗をすれば黒歴史になるだろうからか。
一馬は大人しく席に座り直す。
「ったく…こんな奴と補習なんて、如月先輩に勉強教えてもらっときゃ良かったぜ」
「一馬」
「わ、わかった。やりゃいいんだろ!」
焦りつつも、一馬は真っ白だったノートを急いで取り始めた。
クスリと微笑むと、悪態をついてくる。
それも照れ隠しだと知っている俺にとっては、可愛い仕草でもある。
「…なぁ飛燕、ここ、どうやんの?」
教師に…というか、目上に対する態度がなっていないところを除けば、素直な奴だと思うんだけどな。
「どこ?」
「えーっと…うん、まあ…全部?」
「お前…後で覚えとけよ…」
やっぱり、この我が儘お坊ちゃまにはそれなりの教育が必要のようだ…。
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